【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1683話 四神地方・華河藩【リーゼロッテside】

公開日時: 2025年3月11日(火) 12:10
文字数:889

 四神地方(しじんちほう)、華河藩(かがわはん)――。

 その城下町の一角に、香り高い出汁の匂いが漂っていた。


「おいしいですわ~」


 青髪の女性がしなやかな指先で箸を握り、湯気の立つうどんを口に運ぶ。

 その動作はどこか優雅で、まるで異国の花がこの和の空間に咲き誇っているかのようだった。

 彼女は遠く離れたサザリアナ王国からこの地へ、はるばる海を越えてやってきた異邦の人間だ。

 その名はリーゼロッテ。

 青い瞳には、見慣れぬ風景や文化への好奇心と、時折覗く哀愁が入り混じっている。


 彼女は元々、タカシという男やその仲間たちと共に行動していた。

 だが、上陸後の混乱で散り散りになり、今は一人で旅を続けている。

 彼女の肩に掛けられたマントは、旅路の風雪を物語るように擦り切れていた。


 旅の途中、城下町で偶然立ち寄ったこのうどん屋『紅乃庵(べにのあん)』に魅了されて、かれこれ1か月以上もこの町に居座っていた。

 鍋から立ち昇る出汁の湯気、手打ちの麺が踊る音、そして店主・紅乃の笑顔――どれもが彼女にとって、異国で初めて見つけた「安らぎ」の象徴となっていた。


「そう言ってもらえて、嬉しいです。璃世(りぜ)さん」


 店主の紅乃が微笑む。

 その表情は、春の日差しのように柔らかかった。

 ちなみに、璃世というのはリーゼロッテの偽名だ。

 異国の地では、彼女の本当の名前はあまりに目立ちすぎるのである。


 紅乃は璃世が訳ありであることを察している様子もあったが、深くは追及してこない。

 この1か月、ずっと和やかな日々が続いてきた。

 あまりにも美味しそうに食べる璃世につられて、客足も増加傾向。

 しかし、そんな平穏なひとときは、突然の冷たい声によって打ち破られた。


「紅乃がいるという店は、ここか……。ふん、まだうどん作りを続けていたのだな。下らん」


 店の入口から響いたその声は、冬の風のように冷ややかで、店内の空気を一瞬にして凍りつかせた。

 入ってきたのは、豪奢な衣装に身を包んだ男。

 絹のように艶やかな外套に、金糸の刺繍が施されている。

 彼の背後には、鋭い目つきの護衛が数人、まるで影のように控えていた。

 店内の客は一斉に食べるのを止め、箸を置いて平服した。

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