人魚族の魔法師団が、結界魔法を展開している。
一度や二度では不十分で、何度も重ねがけをしていく必要があるらしい。
だが、そのためには大量のMPを消耗する。
「はぁ……はぁ……」
若い女性人魚は、息を荒げている。
MPの使いすぎで消耗しているのだ。
分隊長がそんな彼女に厳しい視線を向ける。
「ふむ……。確かお前は、新人だったな?」
「は、はい」
「ならば、仕方ないか。少し休憩するしかあるまい」
分隊長が頷く。
だが、その女性は首を横に振った。
「お、お待ちください! もう少しだけ……、もう少しだけなら、私はまだやれます!!」
「無理だ。その状態で集中を維持しろというのは酷であろう」
「でも……。里には、弱き者たちがたくさんいます! それらを守るのは、私たち魔法師団の役目です!!」
彼女は懸命に訴えかける。
だが、分隊長の表情は厳しいままだった。
「駄目だ。それでお前が倒れては何の意味もない」
「で、ですが……」
押し問答を繰り返す彼女たち。
これは……。
「なら、こうしようぜ」
俺は口を開いた。
分隊長の視線が俺に向かう。
「ナイトメア・ナイト殿?」
「俺がその魔法を代わりに補助するよ。それなら問題ないだろう?」
俺は言った。
彼女は俺の提案に、ため息まじりに返す。
「そなたは結界魔法について素人であろう? 何の役にも立たない」
「確かに俺は素人だ。でも、後方で結界魔法の発動を補助するぐらいはできるはずさ」
魔法には、いろいろな発動方法がある。
最も一般的なのは、普通に個人が詠唱して発動するタイプだろう。
それよりも難易度は上がるが、詠唱省略や無詠唱なんてのも存在する。
強者同士の戦いなら、むしろこっちの方が主流だな。
チンタラ詠唱している暇はないことも多いし。
また、信頼関係を築けている仲間内であれば、合同魔法の発動も可能だ。
特定属性に適性を持つ者たちが力を合わせることで、段違いの威力を出せたりする。
そういった合同魔法とは少し違うが、他者から魔力を補助してもらうなんてパターンもあったな。
ゾルフ砦の防衛戦でも活用されていた。
リーゼロッテと彼の兄リルクヴィストが氷魔法を構築し、コーバッツがそれを魔力で補助していたのだ。
今回の結界魔法も、それに類似したやり方である。
分隊長やその他の主要メンバーが結界魔法の基本部分を構築し、新人などがそれを補助している形だ。
ちなみに、その他にも魔法の発動方法はまだまだある。
事前に魔法陣を描いておく、アイテムを使って魔力の代用を行う、特殊な詠唱で自然の魔力を活用するなどだ。
ま、今はおいておこう。
「しかしだな……。ナイトメア・ナイト殿の身体能力は高いのだろうが、魔力は別だ。補助なんて真似ができるのか?」
「当然だ。俺はむしろ、魔法の方が得意だぜ?」
どうにも、俺に関する情報はあまり伝えられていないようだな。
個人情報の保護という意味ではありがたいが……。
里を訪れた人族の情報を共有してなくて大丈夫なのだろうか?
いや、これはあえてそうしているのか。
様々な立場の者をフラットな状態で俺に接触させることで、俺という存在の信頼性や危険度を見極めようとしているのだ。
たぶん。
「そうか。そこまで言うのなら、彼女の代役をそなたに任せよう」
「ああ、任せてくれ。さっそく取り掛かろうぜ」
俺は頷く。
こうして、俺は結界魔法の発動を手助けすることになったのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!