幼女ラフィーナに別れを告げ、王都へと向かう。
そして数日の移動の末、ついに外壁が見えた。
この国の王都は、他の街と比べてもかなり大きい。
街の周囲には大きな堀があり、高い城壁に囲まれている。
規模としては、ラーグの街やルクアージュより一回り以上も大きかった。
「あれが王都ですか……」
俺の隣で馬車に揺られているミティが言った。
「ああ、そのようだ」
「近くで見ると凄い迫力だねー。ファルテ帝国の帝都に比べても決して劣らない」
「わ、わたしが訪れたことのあるどの街よりも大きいですね」
「ふふん。中にはどんな街並みが広がっているか、楽しみじゃないの」
アイリス、ニム、ユナがそんなことを呟く。
「ところで、これからどうしますの?」
「まずは街でお散布しようよっ!」
「うーん、そうだなあ……」
リーゼロッテとマリアの言葉を受け、俺は考え込む。
そこに、サリエが口を挟んだ。
「いえ、まずは私たちハイブリッジ家が到着したことを王家に報告すべきでは?」
「それもそうだな」
叙爵式の日までまだ余裕があるが、挨拶ぐらいしておいた方がいいだろう。
「ふん。殊勝な心がけではないか。よし、我が付き添ってやろう」
ベアトリクスがそう言う。
第三王女である彼女が一緒に来てくれるのはありがたい。
俺たちの馬車は連れ立って門へと向かう。
ここは南門らしい。
ずいぶんと立派だ。
通行は基本的にフリーパスらしいが、怪しい者は抜き打ちで取り調べられることがあるらしい。
また、馬車の通行には許可証が必要だという。
そこで頼りになるのがベアトリクスだ。
「お務めご苦労」
「ははっ! これはベアトリクス殿下! ご帰還を歓迎致します!」
衛兵たちが一斉に膝をつき頭を下げる。
「うむ。お前たちの働きはいつも聞いているぞ。よくやってくれているな」
「勿体無きお言葉でございます」
「これが通行許可証だ。通らせてもらうぞ。問題ないな?」
ベアトリクスが書類を衛兵に見せる。
第三王女でも顔パスではないとは。
結構きっちりしている。
「はっ! もちろんであります」
衛兵が道を開ける。
そして、ベアトリクスが率いる数台の馬車は門を通過していった。
俺もそれに続こうとするが……。
「失礼。名のある方をお見受け致しますが、馬車の通行には許可証が必要となります」
衛兵に止められてしまった。
俺たちがベアトリクスの一団ではないことを見抜くとは。
ちゃんと観察しているんだな。
「許可証?」
「ええ。あればすぐに入れますが、ない場合は審査のお時間をいただいております」
許可証なんかあったかな……。
俺は招待された身だし、しばらく待てば審査は下りるだろうが……。
少し面倒だな。
「おーい、ベアトリクス!」
俺は門を通り過ぎてしまったベアトリクスに声を掛ける。
だが……。
「なに? 陛下が?」
「はい。ちょうど会議をしているところなので、ベアトリクス殿下も早急に来るようにと……。その際、例の女性も連行してくるようにとのことです」
「相変わらず耳が早いことだ。すぐに向かうと伝えろ」
「はっ!」
何やら取り込んでいる様子だ。
ベアトリクスは千を乗せた馬車と共に街の奥へと向かって行ってしまった。
困ったぞ。
頼みの綱がいなくなった。
「ええと……。ベアトリクス殿下とお知り合いの方でしょうか?」
衛兵がそう尋ねてくる。
「そうだな。戦友にして同志だよ」
少し前にゴブリンの巣を共に殲滅した仲だ。
サザリアナ王国の発展を願う者として、同志でもある。
「なるほど。やはりあなた様も高貴なお方でしたか。もし通行許可証がない場合でも、しばしの時間をいただければ問題なく許可が下りると思います。失礼ですが、お名前を伺っても?」
「ああ。俺は……」
「我が盟友よ! こんなところで奇遇だな!」
俺の名前を言いかけた時、背後から声が掛かった。
振り向くとそこには聖騎士シュタイン=ソーマがいた。
「おお、シュタインじゃないか。どうしてここに?」
「もちろん叙爵式に参加するためさ。新たに貴族になる者を見るため、各地の貴族たちが王都に集まっているんだ」
「そうなのか。盟友のシュタインがいてくれるのは心強い」
「うむ。ところで、こんなところで何をしているだ?」
「ああ、実は……」
俺は事の経緯を説明した。
すると、シュタインは少し呆れた顔をした。
「許可証がない? バカ言え、王家から叙爵式の招待状が来ただろう?」
「ああ。もちろん」
「その招待状に通行許可証が同封されていたはずだ。それを見せればいい」
「ええと……」
そんなものをもらったかな?
アイテムボックスから取り出して確認する。
招待状が入っていた封筒を見てみると、確かにもう1枚の書類が入っていた。
「あ、本当だ」
「やれやれ。陛下からいただいた書面の確認を漏らすとは、不敬と言われても仕方ない失態だぞ。ほら、早くそれを使え」
「すまない。助かったよ」
「気にするな。お前は我が盟友なのだ。これぐらい当然のこと」
シュタインのおかげで恥をかかずに済んだ。
サリエや蓮華あたりからの視線が少し痛いが……。
俺とシュタインの会話が一段落したことを見計らい、衛兵が話しかけてきた。
「あの……そちらはソーマ騎士爵様ですよね?」
「むっ。そうだが。私を知っているのか」
「もちろんです。これまでに何度かお顔を拝見させていただいておりますので。それに、ご活躍はかねがね聞いております」
「ふふふ。そうであろう。私の活躍は各地に轟いているのだからな」
シュタインが得意げな顔をする。
「はい。そして、そんな貴方様と親しくされているそちらの御仁は、一体どなたですか?」
「ん? ああ、我が盟友の顔はまだそれほど広まっていないのか。武功や内政の話だけが独り歩きしているようだな。彼は……」
シュタインがそこまで言ったところで、俺が言葉を引き継いだ。
「俺はタカシ=ハイブリッジだ」
「え?」
衛兵は一瞬ポカンとした表情になる。
「どうしたのだ?」
「あ、貴方様があの有名な新貴族の……? しかし、ベアトリクス殿下やソーマ騎士爵様とこれほどまでに親しくされているとは……」
衛兵は驚きのあまり口が半開きになっている。
「大丈夫か? これがさっき言っていた通行許可証だ。確認してくれ」
「は、はい。……はい。問題ありません」
ようやく通行の許可が下りた。
もちろんシュタインの通行も無事に下りている。
ベアトリクスは先に行ってしまったし、シュタインに案内を頼もうかな。
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