「な、なるほど……。こんな仕掛けがあったのね」
「ふふふ、どうだ? すごいだろう?」
俺はドヤ顔する。
鏡を用いたトリックアートに、影魔法。
その2つの合わせ技だ。
初見なら、騙されてしまう者も多いはず……。
それぐらい見事な完成度だった。
「で、でも……この表情はどうなってるの? どう見ても完全に死んでいる不吉な生首にしか見えないんだけど……」
「それは、幽蓮の素晴らしい演技力の賜物だよ。忍者として準一流の腕を持つ幽蓮は、死に顔もマスターしているのさ」
「そ、そう……」
景春はドン引きしている。
ちなみに、俺も初めてあの顔を見たときはドン引きした。
白目をむいて舌をだらんと出したあの表情は、いくら忍者とはいえ年頃の少女がやっていい表情ではない。
いやまぁ、この作戦を命じて強制的に実行させたのは俺なのだが。
「ご苦労だったな、幽蓮。約束通り、お前の反逆罪は取り消してやろう。これからは、以前と同じように無月の下について働くように」
俺は生首に告げる。
作戦の成否に関わらず、俺は幽蓮を殺すつもりはなかった。
そもそも、呪いにより殺せないしな。
ただ、成否によって処遇が少しばかり変わることは当然のことだ。
失敗した場合、再び牢に幽閉して無月や黒羽により説得と懐柔を試みる予定だった。
一方、今回のように無事に成功した場合は、罪そのものを取り消す。
そんな約束の上で生首の演技をしてもらった。
「おい、幽蓮。芝居はもういいぞ。そろそろ起きろ」
「…………」
返事はない。
妙だな?
事前の打ち合わせでは、俺が『起きろ』と命令した時点で生首の演技をやめる手はずになっていたのだが……。
「おい、幽蓮?」
俺はもう一度呼びかける。
だが、反応はない。
異変に気付いた樹影が、生首のすぐ傍まで近寄る。
そして、顔を真っ青にした。
「た、高志殿! 大変です!!」
「どうした?」
「幽蓮が……本当に死んでいます!」
「な、なにぃ!?」
俺は慌てる。
幽蓮に駆け寄って確認するが、確かにすぐ傍で見ても明らかに死んでいる表情だ……。
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