俺は魔導技師ムウの治療に取り組んでいる。
ここは秘密造船所の医療室。
この場にいるのは、俺とムウの他、モニカ、ニム、メルルである。
「次は、俺の魔力をムウの心臓に直接注ぎ込むことにする」
「えっ!? そ、それって大丈夫なの?」
俺の説明を聞いて、モニカは驚きを露わにした。
メルルはきょとんとしている。
彼女には馴染みのない方法なのだろう。
「慌てるな。何も、MP量に物を言わせた荒療治をするわけじゃない。見たところ、ムウの心臓付近の魔力回路が異常になっているようだ。そこに微細な魔力を送り込めば、正常化させられる可能性がある」
「な、なるほど……」
「だが、これは繊細な作業となる。そこで、より詳細に魔力回路の様子を把握できるよう、物理的な障害を取り除いておきたい」
「物理的な障害?」
「ああ。具体的には、服を脱いでもらう」
「「「えぇ~~~っ!?」」」
モニカ、ニム、メルルの3人が同時に叫んだ。
かなり驚いている様子だ。
「ちょっ! そんなことをしたら、ムウちゃんが恥ずかしい思いをしちゃうじゃん!」
「そ、そうです! ムウさんは女の子なんですよ!?」
「は、破廉恥な行為を強要するのは止めてください!」
「まぁ、待て」
俺は興奮気味の3人をなだめた。
そして、説明を続ける。
「勘違いしないでほしいのだが、別にムウの裸が見たくて脱がせると言っているわけではない。完全に脱がせるのではなく、魔力回路に異常がある箇所の衣服だけをずらすだけでいいんだ。まずは、胸部だけだな」
「……本当に、そうなの? やらしい気持ちは……ないの?」
「あぁ。本当だ」
「兄さん、信じていいのですか?」
「もちろん。俺が一度でも、女性に対して鼻の下を伸ばしたことあったか?」
疑惑の視線を向けてくるモニカとニムに、俺は真顔でそう言った。
俺と付き合いの長い彼女たちであれば、きっと俺を信じてくれるはずだ。
「ダーリンは、いつも鼻の下を伸ばしていると思うけど……」
「デレデレしっ放しですよね。わたしたちというものがありながら……」
モニカとニムはジト目で俺を見つめてきた。
俺の信用度は、想定以上に低かったらしい。
ならば、最後の砦はメルルだ。
「……確かに、ハイブリッジ様は重度の女好きでいらっしゃるようです。いつも胸やお尻を見ていますし……。初対面のときなんか、私は裸にされて辱められました」
「えっ!? だ、ダーリン、まさか……」
「見損ないましたよ、兄さん」
「ち、違うって! 前に説明しただろう!? ダダダ団の件で、不幸な事故があっただけだ!!」
メルルの発言により、モニカとニムの疑いは晴れるどころかさらに深まってしまった。
このままでは、俺の社会的地位が危うい。
いや、この際それはどうでもいい。
だが、ムウの治療に差し障りが出るのはマズイ。
「おほん……。まぁ、俺を疑うのは仕方ないとしよう。しかし、今はムウの治療を最優先したいんだ。頼む。ここは俺に任せてくれ」
俺は真摯に頭を下げる。
決して、ムウの胸を見たくて言っているわけではない。
彼女を無事に治療したい。
その一心なのだ。
「分かったよ……。でも、ダーリンが変なことしようとしたら、すぐに止めるからね」
「はい、兄さん。わたしも協力します」
「ありがとう。助かる」
モニカとニムが俺のフォローに入ってくれた。
これで何とかなりそうだ。
「……」
しかし、肝心のメルルは何も言わなかった。
無表情で、じっとこちらを見ている。
「ど、どうかしたか?」
「いえ……ハイブリッジ様がそこまで仰るのなら……。でも、ちょっと気になることがあるのですけど……」
「何だ? 言ってみてくれ」
「どうして私たちにここまでしてくれるのかなって……。今回のムウさんへの治療以外にも、普段から疲労回復の治療魔法とか、差し入れとかをたくさんしてくださっているのに……」
メルルはそんな疑問を口にした。
彼女の言う通り、俺がメルルたちに親切にしてきたのは事実だ。
「……あまり詳しくは話せないが、あの船はとても重要な作戦の遂行に必要なものでね。君たちがいなかったら、作戦に支障が出る」
「でも……。それだけでしょうか?」
「そうだな……。後は、メルルやムウがとても魅力的な美少女だから……かな?」
「ふぇっ!?」
メルルは顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。
褒められると弱いタイプなのかな。
「わ、私なんて、そんな……。薄汚い貧乏人なのに……」
「いやいや、そんなことないぞ。俺は自分の理性を保とうと必死なんだからな」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。俺だって男だしな。可愛い女の子が近くにいたら、つい手を出したくなる」
俺は好意をストレートに伝える。
こういうのは、正直が一番だろう。
これでメルルからの好感度が上がること間違いなし!
「じゃ、じゃあ……。やっぱり今からの治療は、ムウさんの胸を見るために……」
「いやいやいや!! それは誤解だ!!!」
「……冗談です」
メルルはいたずらっぽく笑った。
なかなかお茶目な性格をしているようだ。
「――さて、おしゃべりはこの辺にしておこう。ムウの治療に取り掛かるとするか」
俺は改めてムウに向き直る。
そして、胸元の衣服へと手を伸ばしたのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!