隠密小型船に、ティーナの搭乗が発覚した。
彼女は古代アンドロイドだ。
俺がマスター登録をしているわけだし、信頼のできる仲間の1人である。
しかし、想定外の搭乗には違いない。
「それで? ティーナはどうやってここに忍び込めたんだ?」
動機は分かっている。
マスターの俺と離れたくなかったということだ。
しかし、転移魔法陣の発動時に彼女はいなかった。
となると……。
「ピピッ! 当機には迅速な移動能力もあります。町名ラーグから町名オルフェスへの単独移動に何の支障もありません」
「ふむ……。しかし、船へ乗り込むのは……」
「個体名リーゼロッテが招き入れてくれたのです。当機が菓子類や飲料を提供したところ、快く迎え入れてくださいました」
「リーゼが……」
どうやらリーゼロッテを餌付けされてしまったらしい。
彼女は食いしん坊だからな……。
そう言えば、ラーグにいるときもティーナとよく一緒にいたな。
リーゼロッテは、ティーナの他、メイドのレインや料理人のモニカあたりにも頭が上がらないようだ。
彼女たちにお願いされたら断れないのだろう。
「リーゼ、申し開きはあるか?」
「お、おほほ……。よろしいではありませんか。これで、航海中にも美味しいお菓子やジュースが提供されますのよ?」
リーゼロッテが笑って誤魔化した。
確かに、ティーナは『アイテムコンテナ』という古代の高度な機能を持っており、いろんな物資を保管しているらしいが……。
その発言は少々苦しいぞ……。
「リーゼは、本当に食いしん坊だなぁ。まさか、最初から彼女を連れて行く計画を……」
「ち、違いますわよ! 誤解ですわ!!」
リーゼロッテが慌てて否定する。
ま、さすがにそれはないか……。
良くも悪くも、のんびり屋さんの彼女にそこまでの計画性はない。
「ティーナさんの言った通りですのよ? 彼女はタカシさんを追って、オルフェスまでやって来ていたのです。わたくしはたまたま、彼女を見つけただけですわ」
「見つけただけ……。本当か? 何か隠していないか?」
さっきのティーナの説明と、若干の矛盾が存在する。
というか、意図的にリーゼロッテが言及を避けているのだろう。
当然、そこを追及しないわけにはいかない。
俺は責任ある立場だ。
ハイブリッジ男爵家の当主。
Bランクパーティ『ミリオンズ』のリーダー。
この隠密小型船の船長。
そして、ヤマト連邦潜入作戦の指揮官でもある。
愛する妻が相手だからといって、全てをなあなあで済ませるわけにはいかない。
「リーゼ、君に黙秘権は存在しない」
「うう……。はい……」
俺の詰問に観念したのだろう。
リーゼロッテが白状し始めた。
「ティーナさんが、いつものようにお菓子やジュースを下さったのです。そして、驚くべきことに! 次に気がついたときには、彼女は既に隠密小型船へ乗り込んでしまっていたのです!!」
「なるほど。それは摩訶不思議な出来事だな……って、おい! そんなわけあるか!!」
俺はついノリツッコミをしてしまう。
ティーナは高性能な古代アンドロイドだが、さすがに幻惑魔法や催眠術などの機能は持っていない。
これは単に、リーゼロッテがお菓子やジュースに夢中になっていただけだろう。
「くっ! し、しかし……本当に美味しくて……」
リーゼロッテがシュンとしてしまう。
こうなってしまうと、俺は弱い。
別に、愛する女性を過度に詰問して悲しませたいわけじゃないからな。
「はぁ……。まあ、別にいいか」
連れてきてしまったものは仕方がない。
出航から数日以上が経過しているし、今さら引き返すのもな。
未知の鎖国国家ヤマト連邦には、通常の加護持ちばかりで固めた少数精鋭で潜入したいところではあったが……。
ゆーちゃん、ドラちゃん、ティーナ。
現状では加護付与スキルの対象外とはいえ、彼女たちはそもそもが人外の存在だ。
チートの効果抜きでも、十分に強いと言える。
多少のリスクはあるが、上手くいけばヤマト連邦における諸々の活動で力になってくれることもあるだろう。
「ピピッ! それでは、残りの3名ですが――」
「それにしても、予想外のことばかりで少し疲れたぜ。今は潜水中だし、休憩してから会議でもして情報共有しておこうか」
俺はそう提案する。
ティーナが何か言いかけていた気もするが、気のせいだろうか。
たぶんそうだろう。
これ以上の不測の事態が発生することはないはずだ。
こうして、俺たちはしばしの休息を取ることにしたのだった。
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