「な、何とか山の頂上まで来ましたけど……何もありませんね」
「そうだな……」
息を切らしながら、俺たちは頂上へと辿り着いた。
そこに広がっていたのは、ただ静寂と冷たい風、そして無骨な岩肌だけだった。
目の前に鎮座するのは、巨大な岩がひとつ。
荒々しい風雨に削られたそれは、どこか神聖な雰囲気をまとってはいるものの、到底神社とは思えない。
「この岩が、神社の本殿か? ……いや、そんなはずないよな。鳥居もなかったし」
俺は額の汗を拭いながら首を捻った。神社といえば、鳥居や本殿があって然るべきだ。
朱塗りの柱、古びた注連縄、賽銭箱や拝殿――そんなものがあってこそ、神社のはずだ。
しかし、ここにはそれらしきものは一切ない。
ただ、乾いた風が大岩の周囲を吹き抜け、寂しげな音を響かせているだけだった。
「山の頂上ではなく、中腹や麓に神社があったのでしょうか? 深詠藩で最大の神社は山の頂上にあると聞いたことがあるのですが、それが誤情報だった可能性はあります」
隣に立つ紅葉が慎重な口調で言う。
彼女の視線もまた、周囲を彷徨っていた。
確かに、山の麓や中腹に神社があってもおかしくはない。
だが、俺たちは「頂上にある」という情報を元にここまで来たのだ。
それが誤情報だった可能性……そう考えると、なんとも言えない徒労感が胸に広がる。
「うーむ、どうだろうな……」
俺は腕を組み、思案する。
途中、視界には入っていたけど見落としてしまったのか?
あるいは、道が別れていて別ルートを進んでしまったのか?
ならば引き換えしてもう一度探す必要がある。
だが、この山は広く、そして高い。
もしまた下山して探すとなると、時間も体力も相当削られる。
そう簡単には踏ん切りがつかない。
「とりあえず、この頂上近辺を探してみよう。何か手掛かりがあるかもしれん」
「分かりました!」
俺たちは再び歩き出した。
山頂付近の空気は澄み渡り、ひんやりとした風が額を撫でる。
眼下には幾重にも連なる深緑の山々が広がり、その遥か向こうには、霞がかった湖が陽光を鈍く反射していた。
まるで古の絵巻物に描かれた風景のように、どこまでも静謐で美しい。
しかし、俺たちが求めているのは、この絶景ではない。
草むらを掻き分け、岩の隙間を覗き込み、慎重に地面を踏みしめながら探索を続ける。
しかし――結果は、徒労だった。
「駄目ですね……。見つかりません」
紅葉が肩を落としながら呟く。
その声には、疲労と落胆が滲んでいた。
「そうだな……」
俺も嘆息する。
周囲を見渡してみても、やはり神社らしきものは影も形もない。
頂上には大岩が一つ。
そこから少し離れた周囲には、小さめの岩や木々がある。
それだけだ。
やはり、神社があるのはここではなかったのだろうか。
ぐ~。
不意に、静寂を破るような音が響いた。
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