「いいか? 女性が未経験であることには何の問題もない。むしろ、未経験な女性の方が好ましいとさえ言える」
「そうなのですか? 確かに、お母さんもそんな話をしていたような気はしますが……。いまだによく理解できません」
紅葉が首を捻る。
彼女は約12歳だ。
母親は3年前に死亡したという話を聞いている。
意外なほどに物知りな彼女であっても、こういった方面の知識については乏しいのだろう。
「それはどうしてですか?」
「例え話だが……。『一度も戦ったことのない戦士』と『一度も攻め落とされたことのない城』、どちらの方が価値があると考える?」
「え……? それは……『一度も攻め落とされたことのない城』では?」
「その通りだ」
俺は大きく頷いた。
紅葉の答えは全くもって正しい。
「男性を戦士、女性を城に置き換えてみよう。男性は戦ってこそ意味がある。しかし、女性は違う」
「はい……。それはそうですけど……。でも……うーん……?」
紅葉は首を捻る。
なかなか納得できないようだ。
こういった例え話は、刺さる人には深く刺さる。
しかし、そうでない人にはさっぱり分からないということもある。
「なら、生物学的に説明しよう。つまるところ、人間だって獣の一種なんだ」
「獣……ですか?」
紅葉が首を捻る。
これは、彼女には少し難しい話かもしれない。
俺は噛み砕いて説明することにした。
「子孫を残すという行為は、生物にとって最優先の使命だ。そのためには、異性と交尾をしなければならない」
「こ、交尾……」
紅葉が顔を赤くする。
やはり、この手の話は苦手らしい。
ここらで話を切り上げるべきか?
……いや、紅葉は恥ずかしがりながらも興味津々な表情をしている。
ストップがかかるまでは話を続けよう。
「ああ。交尾をしなければ、新しい命は生まれないからな」
「それは……そうですね……」
「だが、闇雲に交尾をするだけでは不十分だ。オスとメス、それぞれに適した交尾戦略がある」
「それぞれに適した……戦略?」
紅葉が尋ねてくる。
俺は頷いた。
「人間という種における雌雄の最大の違いは、妊娠するか否かだ。オスは精を注げばそれで事足りるが、メスの場合はそうもいかない。子どもを産むという使命がある」
「はい」
「人間の場合、妊娠してから出産まで1年近くかかる。その間、しっかりと栄養を摂取する必要があるし、産後は体力の回復も必要だ。一人の女性が産める人数には限界がある。歴史的に見れば30人以上産んだ女性もいるし、それぞれの町単位でも探せば10人産んだ人だって見つかるだろう。だが、現実的には2~5人くらいが限界だ」
「確かにそうですね……」
紅葉が頷く。
その目は真剣そのものだ。
ひょっとすると『理屈っぽい』とか『子ども相手に生々しい話を持ち出すな』などと言われるかと思ったが、紅葉はそんな様子は微塵も見せない。
ま、彼女は知的で好奇心旺盛だからな。
むしろ、こういう話は好きなのかもしれない。
このまま続けよう。
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