「はぁ……、はぁ……」
美少女エルフが肩で息をしている。
彼女は鋭い目つきで蓮華を睨みつけており、その手には細身の剣が握られていた。
しかし、蓮華は大きく表情を変えない。
淡々とした態度を崩さず、静かに相手を見つめている。
「くそっ! どうして反撃してこない!? この紛い物が!!」
美少女エルフが苛立ちを隠せず、そう叫ぶ。
「紛い物とは、何のことでござる? 拙者もお主と同じ、妖精族でござるが?」
「うるさい! その胸、どう見ても純粋な妖精族のものではないだろうが!!」
美少女は、ビシッと指を蓮華の胸部に向ける。
妖精族――通称エルフは、スレンダーで華奢な体型が特徴だ。
胸のボリュームは少なめである。
しかし、蓮華は違った。
「胸でござるか……。拙者もさほど大きくはないでござるが、確かにお主に比べると……」
「なんだ、その目は!? 哀れみの視線を向けるな!!」
美少女は顔を赤らめ、激高する。
その反応に蓮華は苦笑を浮かべた。
「諦めるのは早いでござるよ。拙者も、つい一年程前まではぺったんこでござった。しかし、今は……」
「黙れ! 紛い物め!!」
叫ぶや否や、美少女エルフは再び剣を構えて突撃してきた。
「純粋な妖精族は胸部が生後から不気味に変化したりはしない! その無駄な脂肪の塊は、貴様が紛い物である証拠!!」
「む……?」
美少女の言葉に、蓮華が一瞬眉をひそめる。
蓮華の種族は間違いなく妖精族だ。
タカシの『ステータス操作』によるステータス表記にも、そう記載されていた。
しかし、その記載は万能ではない。
表記による判別は『ハーフ』が限界だ。
遠い先祖に異なる種族が混ざっている程度の場合、ステータス表記だけでは見抜けない場合がある。
「ふむ。興味深い話題でござるが、今は……」
蓮華が言葉を途切れさせたその時だった。
「あ……!!」
美少女エルフが声をあげる。
彼女は気がつけば、蓮華との距離を詰めすぎていたのだ。
「隙だらけでござる」
蓮華の一言とともに、彼女の刃が舞う。
――シュッ!
美少女エルフの剣は空を切り、代わりに蓮華の峰打ちの一撃が彼女の身体を捉えた。
「うぐっ……!!」
「すまぬな。先を急がせてもらうでござる」
美少女エルフが地面に崩れ落ちる。
蓮華は刀を鞘に収め、美少女エルフに一瞥をくれると身を翻した。
「なに、最短距離で隠れ里とやらを通過しても、その場所を外部に吹聴したりはしないでござるよ。それでは、さらばでござる」
そう言い残し、蓮華は森の中へと走り去る。
――こうして、彼女は美少女エルフとの一戦を制し、東へと進むのだった。
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