賭博場から廊下を歩いて、最奥の部屋。
そこにいたのは、全裸でイスに拘束されている少女だった。
俺は彼女を救出すべく、一歩ずつ歩み寄っていく。
「あ、あ……! こ、来ないで……。お願い……。もう、やだ……。ううぅっ」
「待ってくれ。俺は何もしない。君の味方なんだ」
先ほど、俺は『闇蛇団』への怒りの余り、闘気と魔力を開放してしまった。
それで、少女を怖がらせてしまったらしい。
俺は努めて優しく声をかける。
「ひいっ! いやああぁっ!! 助けてええぇっ!!」
「おぉう!? ちょっと落ち着いてくれよ!」
俺の声は逆効果だったのか、彼女はさらに激しく泣き出してしまう。
(男の俺が近づくのは悪手だったか? 今からでもミティかナオミを呼んできて……)
だが、それはそれで数分程度のタイムロスが生まれる。
それに、いくら同性とはいえ全裸で開脚させられている姿はあまり見せたくないだろう。
俺は悩みつつも、足を進めてしまう。
そして、少女のすぐそばに到達した瞬間だった。
「あ、あ、あ……」
少女の様子がおかしいことに気づく。
全身に汗をかき、ガクガクと震えていた。
そして……。
チロチロ。
少女の股間から黄色い液体がこぼれ出す。
ジョロロロロ……。
(これは……失禁した?)
俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。
ここまで怖がらせてしまうとは、さすがに想定外だ。
やはりミティかナオミあたりを呼んできた方がよかった。
俺は自らの選択を悔やむ。
だが、今となってはミティやナオミを呼ぶという選択も取りづらい。
全裸開脚だけなら百歩譲ってまだ耐えられたかもしれないが、失禁を見られてはいくら同性同士とはいえ耐えられない。
この事実を知る者は、俺1人でいい。
「ぐすっ! ……ひぐっ!」
「大丈夫か?」
俺は声をかけてみるものの、少女からの返事はない。
とりあえず、少女の股間を水魔法で洗い流し、拘束されていた手足を解放した。
「ほら。もう自由だから安心してくれ。怖い思いをさせちゃったね。本当にごめん」
「いや、いやなのぉ……。騎士様、どこに行っちゃったのぉ……」
「……」
少女は、未だに泣き続けている。
自由になったというのに、イスから立ち上がることもせず縮こまっていた。
俺が近づいただけで体を強張らせているあたり、これはかなり重症だ。
(やはり今からでも……。いや、彼女が言う『騎士様』とはいったい誰のことなんだ……?)
俺は思考を巡らせる。
文脈から考えて、騎士なら誰でもいいという意味ではなく、誰か特定の騎士の姿が少女の頭の中にあるはず。
しかし、ネルエラ陛下やイリーナから得た情報によれば、この『闇蛇団』に対して潜入作戦などを実行していた騎士はいない。
となると……。
(この部屋に閉じ込められ、妄想の中の騎士様に救いを求めていたということなのか……?)
そう考えるのが自然だろう。
だとすると、その騎士の姿を俺なりに再現してあげれば少女を落ち着かせることができるかもしれない。
「私はあなたの騎士です。お迎えに上がりましたよ、姫様」
俺はなるべく優しげな声音で語りかけた。
「ふぇ?」
少女は俺の言葉に始めてまともな反応を返した。
目を大きく見開き、涙で濡れた瞳で俺の顔をじっと見つめてくる。
「さあ、一緒に帰りましょう」
「あ……。あ……。あああああっ!!」
少女は突然立ち上がり、俺の胸に飛び込んできた。
「怖かった! 怖かったよおおおっ!!」
「よしよし。よく頑張りましたね」
俺は少女を抱きしめながら、頭を撫でる。
そして、彼女の背中をさすりつつ、優しく言葉をかけた。
「大丈夫ですよ。私が付いていますから」
「うわあああん! ありがとう! ありがとうございます!」
少女は俺の胸に顔を埋めて、泣き続ける。
ひとしきり泣いた後、少女はようやく落ち着きを取り戻した。
「……すいません。みっともないところを見せてしまいまして」
「いえ、とんでもない」
「わたしの名前はノノンといいます。あなたの名前を教えていただいてもよろしいですか?」
少女改めノノンがそう尋ねてくる。
「ああ、私の名前は……っ!?」
俺は彼女と視線を合わせて答えようとしたが、とある事実に気付いて顔を背けた。
なぜなら、彼女は今全裸だったからだ。
「どうされました?」
「いや、あの……」
「え? ……きゃあ!」
ノノンは慌てて両腕で体を隠すが時すでに遅し。
俺の網膜にはしっかりと焼き付いていた。
まぁ、それ以前に全裸放尿シーンを目撃しているわけだが。
それでも一応、見てないフリくらいはすべきだった。
(しまった……。やってしまった……)
俺は自らの不注意を悔いるがもう遅い。
ここは素直に謝るべきだろう。
「申し訳ありません。姫様のお体を見てしまいました」
「あ……。そうだ、わたしはパンツを脱がされて……。ううぅ……」
ノノンは再び泣き出しそうになるが、ギリギリ踏みとどまったようだ。
彼女は恥ずかしげに頬を染めると、小さく呟く。
「……もうお嫁にいけません。パンツを履いていない女なんて……。ぐすんっ!」
ノノンが落ち込んでいる。
無事に助かった今、早く日常の精神状態に戻してあげるべきだ。
そのために俺が行うべきことは3つ。
1つは、何らかの手段によりパンツを確保し、彼女に渡して履いてもらうこと。
そしてその際に、彼女を元気づける気の利いた言葉を添えること。
最後に、無事に親元に帰してあげることだ。
ちゃんと責任を持って最後まで面倒を見てあげることにしよう。
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