俺は『マジック・ドレイン』の罠にかかった。
幸い、俺のMP量が規格外だったため、戦闘不能には追い込まれなかった。
だが、吸収した俺の魔力を利用してリオンが次なる手を打とうとしてくる。
「クッハッハ! 今こそ奥の手を見せるときだ!!」
リオンが叫ぶ。
同時に周囲の魔法陣が輝き始めた。
「今度はなにをする気だ? もう大道芸は見飽きたぞ」
「余裕ぶっていられるのも今のうちだ! これこそが我が真の研究成果……! その最終形態だ!!」
魔法陣の輝きが増していく。
どうやら、俺の魔力を使って巨大な魔法陣を起動したつもりのようだ。
「ほう」
「オルフェスの中央広場にある古代魔道具……原理は未解明だが、私にかかれば再現することは可能! そして今しがた貴様から奪った豊富な魔力があれば、実際に起動させることもできるのだ!!」
リオンは自信満々に叫んでいる。
その言葉に嘘はないようだ。
魔法陣の輝きがどんどん増している。
そして、その輝きが最高潮に達したとき――
「出でよ、異世界の英雄! その力を私に貸し与えるがいい!! 【英霊召喚・ベテルギウス】!!!」
魔法陣が強烈な光を放った。
それと同時に、強大な気配が部屋の中に現れる。
『――呼びかけにより来てやった。我が名は龍神ベテルギウスである』
魔法陣の中心に、一人の男が立っていた。
全身を黄金の鎧に包み込んだ壮年の男だ。
男は金色の瞳でリオンを見つめている。
「き、来たか! ついに完成したぞ! これで私はさらなる高みへと昇れる!!」
リオンが狂喜乱舞していた。
よっぽど嬉しいのだろう。
『――まずは名乗れ、異世界の人間よ』
「うひょおっ! しゃべった! 喋ったぞおおっ!」
『…………』
リオンは完全に舞い上がっている。
男の威厳たっぷりな問いかけなど聞こえていないようだ。
『――おい、聞いているのか? もう一度問う。汝の名を言え』
「あ、ああ! わ、わかっているとも! 貴様の問いに答えてやろうではないか! 私の名はダン・ド・リオン! ダダダ団の首領にして、至高の研究者! そして――『アーティファクト・チャンピオン』である!!」
リオンが叫ぶ。
すると、男――ベテルギウスの表情が変わった。
『――くだらぬ』
「……は?」
『この程度の小物に呼び出されるとはな。我の格も落ちたものだ』
ベテルギウスは嘆息する。
リオンはポカンとした表情をしていた。
「な、なにを言っている? 貴様を呼び出すためにどれほどの魔力を使ったと……」
『魔力か……。確かに、なかなかに美味い魔力であったぞ。量はちと少なかったがな』
「は? あの魔力量で……少なかっただって?」
リオンが愕然としている。
確かに、英霊ベテルギウスの召喚に使用した魔力量はかなりのものだ。
リオンご自慢の大容量魔石に貯蔵した魔力――その全てを使っていたからな。
一般的に言って、一度のあれほどの魔力を消費することはそうそうないだろう。
しかし同時に、まだまだ上はある。
現に、俺のMPが全て吸われたわけではなかったわけだし。
『追加の魔力を献上せよ。さすれば、汝の望みを叶えてやらんでもない』
「そ、それは……」
『――どうした? 早急に魔力を寄越せ。さもなくば我は帰還させてもらう』
「ま、待ってくれ! 魔力なら後で都合をつける! だから私に力を貸してくれ!!」
『後払いだと? 論外だ。――と言いたいところだが、あの魔力の味をもう一度味わえないのは惜しい。特別に、10分だけ我が力の一部を貸し与えてやる。その間に目的を為すがよい』
「た、たった10分間……?」
『不服か?』
「い、いや! 分かった、それでいい! 私に力を貸してくれ!!」
リオンが叫んだ。
その顔には焦燥とともに、希望の色が見え隠れしている。
龍神ベテルギウスの力さえ借りることができれば、10分で俺を倒せるつもりのようだ。
『では、行くぞ』
ベテルギウスの体が霧状に変化する。
元よりこの世のものではない存在であり、実体はなかったらしい。
彼はその状態のままリオンの体に入り込んでいった。
「な、なんだこれは!? 力が溢れてくるぞぉ!? これが英霊の力か!!」
リオンが叫んだ。
その顔には、隠しきれない喜びが浮かんでいる。
「クッハッハ! 名付けるなら【英霊纏装・ベテルギウス】といったところか!! 勝てる! どんな奴が相手でも負けるはずがない! 私は今、究極の力を身につけたのだぁぁぁっ!!」
リオンが叫び声を上げた。
彼の言う通り、今のリオンは常人離れした強さを得ているようだ。
全身から濃密な闘気を放っている。
「さぁ、第二ラウンドの開始だ! 覚悟しろ、『ナイトメア・ナイト』!!」
「ふむ……。それが英霊とやらの力か。どれ、少しばかり遊んでやろう」
俺は拳を構える。
そして、リオンと対峙するのであった。
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