「ひ、ひどい目に合ったぜ……」
流華が嘆く。
スクワットを実演し終わったあとのことだ。
俺の熱い視線を一身に受けた彼は、気疲れしてしまったらしい。
俺はそんな彼を労いつつ、着替えをしっかりと手伝った。
「すまんな、流華。謝罪回りを終えた直後だというのに無理させてしまった」
「い、いいよ。兄貴の頼みなら……」
「そうか」
俺は流華に微笑みかける。
彼は恥ずかしそうに視線を逸らした。
「しかし、流華は身体能力が高めだな。パワー系ではなく、スピード寄りのバランス型だ」
「そ、そうなのか? よく分かんねぇけど……」
流華が首を傾げる。
彼からすれば、よく分からないことを言われて戸惑っているように見えているだろう。
だが、俺は彼のことをよく観察していた。
ミティほどの超パワーはないが、ほどよい肉付きをした体つきは素晴らしい。
大胸筋も大臀筋も、申し分ない成長具合だ。
脚力に優れているという点で言えば、モニカやアイリスに近いか……?
いや、さすがに彼女たちほどの超スピードは出せないだろうが。
「うっ……!?」
俺は思わず頭を抑えた。
記憶の一部にノイズが走る……。
「だ、大丈夫か? 兄貴?」
流華が心配そうに尋ねる。
痛みはもうない。
だが、先ほどまで俺は誰のことを思い浮かべていたんだ?
ミ……いや、思い出せない。
「ああ……。ちょっと頭痛がしただけだ」
俺は適当に答える。
流華は納得しかねる様子だったが、それ以上追及してこなかった。
「あの……高志様」
「どうした、紅葉?」
俺は振り返る。
そこには、ほっぺたを含ませた紅葉がいた。
「どうしたんだ? そんな顔をして……」
「私はどうですか? 流華くんのことばかり構って、私のことを忘れてませんか?」
紅葉がややジトッとした瞳で見つめてくる。
そうだ……。
流華の大胸筋と大臀筋が素晴らしかったので、つい我を忘れてしまった。
この部屋には、ずっと紅葉もいたのだ。
「すまなかったな。紅葉も大したものだぞ」
「ふんっ!」
俺が謝罪すると、紅葉はそっぽを向いてしまった。
そんな彼女を宥めるべく、俺は言葉を重ねる。
「紅葉は12歳ぐらいだろう? まだ子どもだと思っていたが、あのときに見せてもらった体は素晴らしかったぞ。膨らみかけの果実といか……」
「ふぇっ!?」
紅葉が素っ頓狂な声を上げる。
……うん?
俺は何か間違ったことを言っただろうか?
「あ、あの! そういうことではなくて……。いえ、もちろん高志様に褒められるのは嬉しいのですが……」
「ん? どういうことだ?」
「わ、私も高志様のお役に立ちたいという話です! 食料不足だったので体はちょっと弱いですけど、高志様が望まれるなら頑張って鍛えます!」
「紅葉……。君は素晴らしいな」
俺は素直に称賛を送る。
彼女はちょっと小柄だ。
正直、あまり戦闘に向いているとは言えないが……。
「紅葉には紅葉で良いところがあるさ。村育ちとは思えないほどの知識があるし、植物とかにも詳しい。少し前に始めた魔力の基礎鍛錬も、確実に身についているぞ。とても偉い」
俺はそう言って、紅葉の頭を撫でてあげる。
すると、彼女は嬉しそうに微笑んだのだった。
「さてと……」
俺は立ち上がる。
そして紅葉と流華に向き直った。
「この街での用は済んだ。次の街に向かおうと思うんだが……いいか?」
「もちろんです! 私はいつでも高志様についていきます」
「オレもいいぜ。兄貴の行くところなら、どこへでもついていってやる!」
紅葉と流華がそう答える。
戦闘能力だけなら、彼女たちは足手まといと言えなくもない。
だが、見知らぬ土地での一人旅はとても心細いものだ。
その不安を払拭してくれるだけでも、彼女たちの存在はとてもありがたいと思える。
「よし、では行くぞ! 次の目的地は、桜花城の城下町だ!!」
俺の掛け声に、紅葉と流華が頷く。
俺たち3人の旅はまだまだ続いていく。
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