ミドルベアを討伐し、霧蛇竜ヘルザムを撃退し、俺たちのスキルを強化してから数日が経過した。
俺とミティは、ミティの両親であるダディとマティの仕事を手伝ってきた。
ミティは今回のスキル強化により、鍛冶術がレベル5に達している。
技術だけなら達人の領域に踏み込んだと言えるだろう。
ダディとマティも改めて驚いていた。
ただし、ミティの器用のステータスはまだ低めだし、鍛冶の実践経験も不足気味だ。
まだまだ伸びしろは残っている。
そんなミティとともにがんばって手伝ってきたかいもあり、ダディとマティの仕事が無事にひと段落した。
隣街にいっしょに向かうことにする。
俺、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
ダディとマティ。
さらに、マイン、マーシー、フィルという人たちもいっしょだ。
マイン、マーシー、フィルは、俺とは初対面だ。
ガロル村で最近人気の餅屋の人たちらしい。
村長がダディたちへ贈っていた餅の生産者だ。
マインが女性、マーシーとフィルが男性。
近隣の街にも餅を売りに行くため、ちょうどいいということで同行している。
総勢10名で、馬車に乗って隣町に向かう。
ボフォイの街という名前だ。
御者はダディとマティが務める。
移動中は特にすることもない。
アイリスは御者の技術に興味があるようで、ダディやマティと話し込んでいる。
「いいかい。アイリスちゃん。馬を操るには、まずは馬の気持ちを理解しないといけない」
「ふむふむ……」
アイリスがダディの説明を熱心に聞いている。
モニカとニムは、2人でゆったりとくつろいでいる。
俺はどうしようかな。
せっかくだし、マインたちに話しかけてみるか。
「マインさん。あなたのところのお餅をいただいたことがあります。すばらしい味でした」
俺はマインにそう話しかける。
村長がダディたちに詫びの1つとして贈った餅。
それを、俺たちにもお裾分けしてもらえたのだ。
「食べてくれたのね。ありがとう」
「何か秘訣はあるのでしょうか?」
興味本位で聞いただけだったが、これがマズかった。
マインがグイッと体を前に出し、熱弁を始める。
「よくぞ聞いてくれました! まず大切なのは、もちろん材料! 東の島国から輸入した品種を使っているの。最近はガロル村周辺での栽培にも挑戦している。次に大切なのは、餅つきね。力加減、時間、環境。どれもきちんと調整しないと、本当においしいお餅は作れないわ! 力加減はある程度は強いほうがいい。日々の鍛錬が大切ね。時間は長くかけすぎてはダメ。お餅が固くなっちゃう。つく人とこねる人のコンビネーションも大切よ。息をうまく合わせないとね。環境は、少し曇っているぐらいの日がベスト! 雨の日は湿度が高くてお餅が柔らかくなり過ぎちゃうの。逆に晴れればいいってものでもない。水分が蒸発しちゃうからね。だから、曇りぐらいが一番なの。ついた後の隠し味に、いくつかの調味料も入れているわ。これはフィルの得意分野ね。具体的な調味料の種類や配合比率は秘密よ。どうしてもと言うのなら、私たちのところへ弟子入りしてくれば考えてみてもいいわ。それから……」
マインの熱弁は続く。
マズいぞ。
話が右から左へと通り過ぎていく。
ミティやモニカたちに視線で助けを求める。
サッ。
ササッ。
目を逸らされた。
マジかよ。
俺たちは血よりも固い絆で結ばれたパーティ。
どんな困難にもともに立ち向かっていくと誓ったじゃないか。
「……おいしいお餅は、いかにしてつくるか。チームで息を合わせて突かないと本当にいい味は出ない。あとは味見も大切ね。私たちは毎日お餅ばかり食べて、味を探求してる。これは大切なことだと思ってる。でも、毎日お餅ばかりを食べている私たちの味覚は、他の人とは変わってしまっている恐れがあることも自覚してる。だから、常連さんに味の満足度を定期的に聞いたり、通りすがりの人に試食してもらったりもしているわ。調味料のバランスが大切よ。毎日同じ味だと飽きちゃうかもしれないしね。季節や天候によっても微妙に味を変えているわ。それから……」
マインの熱弁が止まらない。
若干話がループしている気もする。
なかなか終わりそうな気配がない。
餅の知識にまったく興味がないわけではもちろんないが。
さすがにこれは……。
だれか助けてくれ。
「マイン。それぐらいにしておくんだな。うんうん」
「ぐふふ。タカシさんも引いているじゃないか。マインの悪いクセだぜ」
マーシーとフィルがそう言う。
助かった。
「もう! これからが一番いいところなのに……」
マインが頬をふくらませてそう言う。
彼女の顔はかわいいんだけどな。
残念ながら、俺では彼女の餅に対する愛に付いていけそうにない。
マーシーやフィルと末永く幸せになってくれ。
俺はミティたちと幸せになろう。
俺は隣に座るミティの手を握る。
「どうかしましたか? タカシ様」
「いや。何となく手をつなぎたくなっただけだ。嫌か?」
「嫌だなんてとんでもありません。ずっと手をつないでいたいぐらいです」
ミティが少し顔を赤らめてそう言う。
ボフォイの街へはまだしばらくかかる。
馬車は順調に道を進んでいく。
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