数日後――
「せぇい!」
「……やぁっ!!」
俺は木刀を振るう。
相手は……桔梗だ。
武神流の門下生になった俺は、さっそく指導を受けているのだ。
「防がれたか……。やるな、桔梗!」
「高志くん、その調子……。でも、もっと鋭くできる……」
桔梗がそう指摘する。
聞いての通り、彼女は俺のことを『くん』付けで呼ぶ。
俺の方が年上なので、少々の違和感を覚えるところだが……。
俺は彼女の門下生でもあるので、『高志さん』と呼ばれるのも微妙なところだ。
くん付けはいい落とし所だろう。
ちょっとむず痒い感じもするけどな。
「望むところだ! 俺の剣についてこれるかな?」
俺はさらに剣速を上げる。
だが、桔梗は難なくそれを捌いていく。
この少女、かなり強い。
俺が闘気や魔力による身体強化をしていないことを差し引いても、だ。
さすがは武神流の師範代といったところか……。
「はぁーーっ!」
「ん……!」
俺は剣に力を込める。
だが、桔梗はそれすらも受け流してしまう。
まるで俺の攻撃が通用しない……。
「はぁ……はぁ……」
俺は荒い息を吐く。
さすがに疲れてきたな。
治療魔法を自分にかければ、多少の疲労は回復できる。
だが、この道場ではそのようなことをしないと決めている。
闘気や魔力を自主的に封印して鍛錬をすることで、武神流の真髄に迫ろうというわけだ。
俺がこれまで使ってきた我流の剣術とは、理論からして異なる。
武神流の体系に従った修行を積むことにより、その真髄が見えてくるだろう。
「ん……。少し休憩……」
桔梗はそう言うと道場の端に座り込み、水筒を口に運ぶ。
ゴクゴクと喉を鳴らしながら、美味しそうに水を飲んでいた。
「俺も喉が渇いたな……。あっ、しまった」
水筒を持ってくるのを忘れた。
普段は、水魔法で生成した水を飲んでいるからな……。
水筒を持ち運ぶ習慣がないのだ。
この道場では『闘気や魔法の使用禁止』というルールを自らに課していたが、飲み水を生成するぐらいなら別にいいか?
いや、『これぐらいいいか』という甘えから、ズルズルと修行がだれてくる可能性もある。
ここはグッと我慢だ。
「ん……」
桔梗が水筒を差し出してくる。
この行為の意味するところは……。
「俺も飲んでいいのか?」
「私の飲みかけでよければ……」
「もちろんだ。ありがとう」
俺は水筒を受け取り、喉を潤す。
美少女の飲みかけと思うと、少し緊張する。
だが、その水は冷たくて美味しい。
「ふぅ……。生き返った」
「ん……お粗末さまでした……」
俺は水筒を返す。
桔梗は水筒を受け取り、またゴクゴクと飲んでいた。
明らかに間接キスになっているが、あまり意識していないらしい。
彼女はまだ12歳ぐらいのようだし、そういった方面を気にしていないのだろう。
あるいは、おっさんというべき年齢になりつつある俺は、最初から意識の範囲外なのか……。
いや、俺は各種チートのおかげで引き締まった体をしているし、まだまだ『お兄さん』や『好青年』と表現しても許される外見や雰囲気をしているはずだ。
あわよくば、紅葉や流華とも並行して彼女への加護(小)付与も狙っていきたいところだが……。
まずは引き続き稽古を付けてもらって、地道に仲を深めないとな。
俺は休憩の時間を利用して、桔梗に話を振ることにした。
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