「……死ぬぞ? お前」
俺は言う。
捨て身の攻撃には、確かに驚かされた。
だが、致命傷には至っていない。
対照的に、景春はボロボロだ。
腹に深い刺し傷があり、両腕は焼け爛れてしまっている。
もはや死に体だ。
「余は負けぬ……! この秘奥義を発動した今、余に敵はない!!」
「秘奥義……か」
「いけ! 【血統妖術・桜吹雪】!!」
景春は叫ぶ。
その膨大な妖力で生み出された花びらが、彼の周囲に舞った。
「ふむ? よく分からんが……妖力の密度が上がっているな」
俺は分析する。
彼が発動した秘奥義は……確か『神霊纏装・木花咲耶姫』だったか?
どこかで聞いたことのある神の名だ。
じっくり思い出す時間があれば、思い出せるかもしれない。
だが、今は戦闘中だ。
観察や考察は後にするべきか……。
「くっ! おのれ! 余裕ぶりおって! 何故、避けぬ!?」
「避ける必要がないからだ」
先ほどの顎への一撃は、カウンターで食らった。
攻撃に意識と魔力を割いた隙を狙われたのだ。
その後の大技も、危うかった。
顎への攻撃で脳が揺れており、魔力などによる防御耐性が乱れていた。
しかし、今は違う。
油断なく『炎精纏装・サラマンダー』を維持している状態では、彼の攻撃は俺に届かないのだ。
大技『神霊纏装・木花咲耶姫』とやらによって強化された今の彼でも、『素の実力差』や『火と桜の相性差』を覆すことはできない。
「さて……」
改めて、『豪熱球』で攻撃していくべきか?
いや、またカウンターをくらうのは避けたい。
両手で攻撃する以上、どうしても顎や体はフリーになってしまうからな……。
安全に仕留めるなら、遠距離魔法か、あるいは瞬速の居合い切りあたりか。
だが、景春には『散り桜』がある。
低威力の攻撃は無効化される。
かと言って、魔力や闘気を込めすぎると跡形もなく吹き飛ばしてしまうだろう。
いい感じの威力に調整できたとしても、今度は当たりどころの問題がある。
景春が下手に動くと、ボディを狙った斬撃で首を切り飛ばしてしまう……なんてこともあるかもしれない。
「……なぁ、ちょっと気になったんだが」
「戦闘中に雑談か!? どこまでも舐めおって――」
「その大技、どうして最初から発動しなかったんだ?」
「――っ!!」
俺の指摘に、景春は目を見開く。
格下ならともかく、格上との戦闘で出し惜しみは愚の骨頂だ。
俺は景春との戦闘前に、樹影とかいう桜花七侍を目の前で撃破している。
それを目の当たりにすれば、出し惜しみなんかできないはず……。
「なぁ、どうしてだ?」
「……発動準備に時間を要しただけだ」
「ふーん? ずいぶんと素直に話すじゃないか。しかし、時間ねぇ……」
「くっ……! 何が言いたい!!」
「いや? 俺は妖気を察知する能力もそこそこあってな。大技の発動を準備している気配なんて、何も感じなかったからさ」
俺は『ステータス操作』のチートスキルを持っている。
残念ながら、『妖力察知』というようなそのものズバリなスキルは持っていないし、『火妖術』なども未習得だが……。
これまでに『魔力強化』『闘気術』『気配察知』『視力強化』『聴覚強化』などといった多種多様なスキルを取得してきた。
それぞれのスキルには、多かれ少なかれ副次的な恩恵がある。
妖力関係のスキルは未習得でも、その全てを一切理解できないわけではない。
いやむしろ、そこらの大和連邦民より適応できる自信がある。
「そ、それは……」
景春は言葉に詰まる。
彼の視線は泳いでいた。
「何か隠し事がありそうだな……」
「だ、黙れ! そんなものはない!!」
景春が叫ぶ。
俺は見逃さなかった。
彼の視線が一瞬だけ俺の斜め後ろ……天守閣の障子に向いたことを。
そう言えば、そのあたりから小さな気配を感じていたな。
小鳥か鼠かと思ってスルーしていたが……。
「こっちか」
「なっ……!? ま、待て!!」
「待たない」
俺は景春の声を無視する。
そして、障子を蹴り破った。
「ほう……? これはこれは……」
俺はニヤリと笑う。
そこには、景春とよく似た幼女が2人、抱き合って怯えていたのだった。
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