中継の村に立ち寄ろうとした俺たち一行だが、何やら不穏な空気を感じ取った。
「ふむ……。どうやら、盗賊が村に居座っているようだな」
「えっ!? そ、そうなのです?」
俺の言葉に真っ先に反応したのはゼラだ。
確か、彼女は王都生まれの王都育ちなのだったか。
比較的安全な王都で独創的な料理を生み出してきた彼女は、こういった荒事には慣れていないらしい。
「ああ。村の方から荒っぽい気配が感じられる」
「そ、そんな……。怖いです……」
レネが怯えたような表情を見せる。
彼女はハーピィなので、いざとなれば飛んで逃げられるような気もするが……。
まぁ、山や森の上を飛んでいても、飛行型の魔物には襲われるしな。
やはり、彼女にとっても盗賊は恐怖の対象なのだろう。
「あうぅ……。びえぇーー!!」
「よしよし。大丈夫だからね、モコナ」
不穏な空気を感じ取ったのか、モコナが泣き出してしまった。
その頭を撫でながら慰めるモニカ。
「あうあ!」
「…………」
それとは対称的に、ミカは落ち着いたものだ。
アイリーンはやや落ち着かない様子だが、モコナのように泣いてはいない。
まだ赤ちゃんなのだが、早くも三者三様の性格が形成され始めている。
「アイリーン、心配ないからねー。……それで、どうするの? もう少し行ったところにも隠れているみたいだけど」
「こ、こちらの存在に気付いているようですね。わたしたちが警戒態勢にあることは、まだバレてはいないようですが」
アイリスとニムがそう指摘する。
村の中には、先ほど行った通り荒っぽい盗賊の気配がいくつもある。
他にたくさんの村人の気配もあるので、殺されたりはしていないようなのは救いか。
そして、村から少し離れたところの木々の影にも、隠れている気配がある。
村へ向かう者を奇襲するような陣形だ。
「私が投石で牽制しましょうか?」
「ふふん。私の火魔法で焼き尽くしてもいいけれど」
ミティとユナがそう提案する。
ミティの剛腕から放たれる巨岩なら、そこらの盗賊などひとたまりもない。
だが、それと同時に周囲のものも大きく破壊される。
村に投げ込んだら村人や建物にも被害が出るし、隠れている盗賊を倒そうにも自然を壊すことになる。
ユナの火魔法も似たようなものだな。
いや、むしろこちらの方が危険か。
森で火魔法をぶっ放せば、森林火災に繋がりかねない。
まぁ、ハイブリッジ男爵家一行には、俺、リーゼロッテ、雪といった水魔法使いがいるので大きな問題はないのだが。
今回は他にいくらでもやりようがある。
ミティの自然破壊やユナの森林火災のリスクは取らなくてもいいだろう。
「いや、今回は俺がやるよ。みんな、下がっててくれ」
俺はそう言って馬車を降りる。
そして、村へと向かって歩き始めた。
出しゃばった俺の単独行動には、みんな慣れている。
落ち着いた様子で俺を見送ってくれる。
しかしそんな中でも、心配そうな素振りを見せる者たちがいた。
「え!? ど、どうして誰も追わないのです?」
「お一人だと危険なんじゃ……」
ゼラとレネだ。
盗賊ごときに俺が遅れを取るとでも思っているのだろうか。
心外だな……。
舐められている。
いや、そう言えば、ゼラやレネは俺の実力を知らないんだよな。
平民から男爵に成り上がった事実は知っているし、”紅剣”の二つ名を持つBランク冒険者であることも知っている。
だが、それはあくまで知識として知っているだけだ。
俺が誰かと戦っているところを直接見たわけではない。
「心配ないよ。タカシなら大丈夫」
「タカシお兄ちゃんは最強だからねっ!」
「そ、そうなのです……?」
「分かりました……。マリア様がそう仰るのなら……」
モニカとマリアの言葉を受け、二人は不安げながらも引き下がった。
俺は背後のそんな様子を感じ取りながらも、一人で歩みを進めていく。
(このあたりか……)
村まではまだ少し距離がある。
馬車と村のちょうど中間あたりに、単独で立っている状態だ。
そして周囲の木々の陰には、盗賊らしき男たちの気配がある。
「隠れている奴ら、出てこい。出てこないなら、こっちから行くぞ」
俺が声をかけると、一斉に盗賊たちが飛び出してきた。
「へっ! よくもノコノコやって来れたなぁ?」
「てめぇの命日は今日だってことを教えてやるぜ!」
「俺たちは『灰狼団』だ。命乞いをするなら今のうちだぜ!」
口々に勝手なことを言いながら、弓を構える盗賊たち。
その数は、ざっと見て10人ほどか。
「俺はハイブリッジ男爵家当主のタカシ=ハイブリッジだ。今すぐに投降するのであれば、命だけは助けてやる」
まぁ、投降しなくても基本的には命までは取らないけどな。
村人たちもたぶん殺されたりはしていないし。
これは、ただの脅し文句である。
「何が男爵だ! 貴族が偉そうにしやがって!!」
「『黒狼団』の兄貴たちは絶対に救いだす!」
「おい、やれ!!」
男たちはそう叫んだかと思うと、次々に矢を放ってきた。
矢なんぞ、俺にとっては大した脅威にはならない。
『焼失』の魔法で消し炭に変えて――いや待て。
ドゴオオォーン!
「へへっ。見たか! とっておきの爆破魔石だぜ!!」
土埃で遮られた視界の外から、盗賊の声が聞こえる。
矢に混じって、魔石がいくつか飛んできていた。
爆破魔石か。
また珍しいものを使ってくるものだ。
この世界の魔石には、いくつかの用途がある。
その内の1つに、『魔法使いが魔石に特定魔法の魔力を込め、誰でも使える状態にして魔法を保存する』というものがある。
俺も、ラーグの街でいくつか製作したことがある。
火魔法を込めた『火の魔石』や、治療魔法を込めた『治療魔石』だ。
今回盗賊が使用したのは、爆破魔法を込めた『爆破魔石』である。
爆破魔法はややレアな魔法だ。
今のところ、ディルム子爵領のカザキ隊長しか使用者を見たことがない。
その爆破の直撃は免れたものの、視界が遮られているのは少し鬱陶しいな。
「油断するな! 矢で蜂の巣にしてやれ!」
「「おおぉーーーーーーッ!!!」」
盗賊たちの叫びと共に、大量の矢が飛んでくる。
爆破魔石もいくつかある。
『焼失』の魔法を使うと、爆破魔石に引火して爆発力が増してしまう恐れがあるな。
ここは――
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