僕様ちゃんは、深夜の森で8人の女性たちと対峙しているです。
彼女たちは、『ミリオンズ』の構成員らしいです。
聖女の威厳を保つためにハッタリを効かせつつ、平和的にやり過ごしたいところです。
「彼はとっても弱かったです。僕様ちゃんの前に、手も足も出ずに敗北しましたからね」
これぐらいのハッタリでどうです?
上手くいけば、聖女の威厳を保ちつつ、相手の戦意を挫くことができるはずです。
「くっ……。信じられないけど、襲撃者がこうして無傷な以上は本当のようね……!」
彼女が悔しそうな表情を浮かべます。
他の少女たちも同様です。
あ、これはちょっと誤解があるかもです。
彼との戦いで僕様ちゃんは傷だらけとなった上、聖気やMPを大量に消費したです。
決して無傷ではありませんでした。
しかし、タカシ=ハイブリッジのマッサージや治療魔法、温泉の効能などで回復したのです。
まぁ、ハッタリを効かせるためには良い方向の勘違いなのでそのままにしておきましょう。
「それで、僕様ちゃんをどうするつもりです?」
「決まっているわ! あなたを拘束して、報いを受けさせてあげるっ!」
「ふ~ん」
なるほど、そういうことですか。
僕様ちゃんは腕を組みながら考え込みます。
(さてさて、どうしたものですかね?)
ここで素直に捕まってしまうというのも一つの手です。
タカシ=ハイブリッジに対する僕様ちゃんの使命は果たした以上、彼のパーティメンバーと対立する意味はないですから。
でも、それでは聖女として示しがつかないですよね?
それになにより、パーティメンバーに負けるということは、間接的にあの変態男に負けたみたいで嫌ですし……。
となると――。
「ふっ……。やめといた方がいいですよ? ミリオンズのリーダーを含むトップ3ですら、僕様ちゃんに勝てなかったですから。下っ端の君たちでは、僕様ちゃんには勝てるはずないです」
挑発気味に言います。
こうすることで、彼女たちの戦意を挫けると思ったからです。
「それはどうかしら? いくらタカシ込みとはいえ、3人だけだったのでしょう? 今のこっちは、8人よ!」
「同じことです。いえ、むしろさらに無謀になったですね」
「ずいぶんな自信ね?」
「そっちが自信過剰なだけです。通常、パーティで警戒すべきはリーダーとサブリーダーのみ……。十分に警戒したとしても、せいぜい3番手までなのです」
僕様ちゃんは淡々と語ります。
これは全て事実です。
聖女たる僕様ちゃんは、各地の冒険者と敵対することもありましたから。
だから断言できます。
4番手以下のメンバーは、はっきり言ってザコ同然だと。
ミリオンズでもそれは同じはずです。
タカシ=ハイブリッジ、ミティ=バーヘイル、アイリス=シルヴェスタ。
以上の1~3番手までの3人を同時に相手する方が、目の前にいる4~11番手の8人と同時に戦うよりもよっぽど大変だと推測します。
「さぁ、どうしますか? 今なら見逃してあげてもいいのですよ? 4番手以降の下っ端なんて、相手するまでもないです。どうせ、あの女好きの変態が考えなしにスカウトしただけのメンバーでしょう?」
「言わせておけば……!」
赤髪の女性が顔を真っ赤にしています。
彼女は怒り心頭といった感じで、言葉を続けます。
「舐めないで頂戴っ! もう容赦しないわよ!!」
「忠告はしたです」
僕様ちゃんは両手を広げます。
「それでも挑んでくるなら、かかって来やがれです!」
「言われなくても、そうするわっ!!」
赤髪の女性が叫びます。
なかなかの魔力を感じます。
彼女が4番手っぽいです。
4番手以下はザコ同然ですが、強いて警戒すべき者を挙げるならばもちろん4番手の彼女でしょう。
彼女が発動するであろう魔法を防いだら、急接近して先制を――
「切り捨て御免……」
「え……?」
一瞬の出来事でした。
隅っこに立っていた和服の女性の姿がブレたかと思うと、次の瞬間にはもう目の前にいて……。
気づいたときには、彼女の刀が僕様ちゃんの太ももを斬りつけていました。
(は、速い……!)
まるで見えなかった……。
いや、正確にはギリギリ見えたのですが、認識した瞬間には斬られていました。
(油断していたとはいえ……)
こんなことは初めてかもしれません。
僕様ちゃんの目を掻い潜った上で、鋼鉄並の強度を誇る肉体に傷を付けるとは……。
もしかしたら、この女が一番の強敵かもしれないです。
4番手はこっちですね。
あの赤髪は5番手でしょう。
「ふむ? 過度に傷付けまいとして、手を抜き過ぎたようでござるな。そんな浅い傷しか付けられぬとは……」
「ふ、ふん! です! 初撃で仕留められなかったのは致命的だったですね! 僕様ちゃんはもう油断しないですよ!!」
冷や汗をかきながらも強がります。
とにかく、今は落ち着かないといけないです。
落ち着くです、僕様ちゃん。
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……。
(よし、落ち着いてきたです)
4番手がこの剣士で、5番手があの赤髪の魔法使いとすれば、もうまともに戦える奴なんて残っていないはずなのです。
6番手以降なんて、どんなパーティでもザコ中のザコですからね。
冷静に対処すれば、僕様ちゃんならどうとでも戦えるはずです。
そんなことを考えた瞬間――
ビリッ!
雷が迸るような音がしたのでした。
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