「さてと……。湧火山藩、那由他藩、深詠藩を支配できた今、近麗地方の南半分は桜花藩の領域になった。次の標的は、翡翠湖藩、死牙藩、虚空島の3つだが……」
俺は地理関係を脳内で整理しながら、呟く。
イメージはこんな感じだ。
北北
北北北北
北北北北
北北
北北
北北北
北北北
中中北北
中中中漢漢
九九九 重重近近中中中漢漢
九九九 重重近近近中中漢漢
九九 桜那中中
九九 四四 湧深
九九 四四
桜……桜花藩(おうかはん)
湧……湧火山藩(わかやまはん)
那……那由他藩(なゆたはん)
深……深詠藩(みえはん)
「次の方針について、紅葉はどう考える?」
戦略の話に切り替えた瞬間、紅葉の表情がきりっと引き締まる。
彼女の戦士としての顔に、俺はわずかな安心を覚えた。
「一度、桜花城に帰還して作戦を練り直すのがよろしいかと」
紅葉は冷静に進言する。
彼女の声は、慎重さと気遣いを込めていた。
俺を無駄に煽らないよう、しかし危険を見過ごさないように。
聡明な紅葉はいつだって、俺の一歩先を見据えている。
「ほう? 俺と紅葉だけでは落とせないと?」
少しからかうように言ってみた。
紅葉は冗談を受け流さず、真剣な目で俺を見つめ返した。
「高志様なら心配無用かもしれませんが、万が一のことがあります。翡翠湖には曰く付きの迷宮がありますし、死牙藩の白夜湖には特殊な妖気が漂っており、強力な妖獣が集います。そして何より、天上人が住むとされる虚空島は私にとって全くの未知に近く――」
紅葉の語る言葉は、具体的かつ的確だ。
彼女の口元は真剣そのものだが、ほんの僅かに震えている。
その震えが、彼女がいかに俺を大事に思っているかを伝えていた。
「分かった分かった。紅葉が心配してくれていることは分かったから」
俺は苦笑しつつ、彼女にストップをかける。
自分のことよりも俺を思ってくれている、その優しさに少し胸が温かくなった。
「一度桜花城に帰ろう。ちょっと急ぎすぎた感もあるし、ゆっくり静養しつつ作戦を練ることにする。それでいいか?」
俺の言葉に、紅葉はほっとしたように息を吐いた。
そして、彼女の顔に柔らかな笑みが戻る。
「はい、もちろんです! そうしましょう」
彼女の返事は、先ほどの硬さが嘘のように軽やかだった。
俺たちは頷き合う。
よし。やはり紅葉は頼りになるな。
彼女の存在は、俺にとってどれだけ大きいのだろうか。
胸の奥で湧き上がる感謝を隠すように、俺は大きく伸びをした。
桜花城に帰ったら、まずは美味いものを腹いっぱい食おう。
そしてその後は、天守閣の最上階で紅葉、流華、桔梗を侍らせて、まったり過ごすとしようじゃないか。
久しぶりに気を張らず、心から安らげる時間を過ごせるはずだ。
「よし! じゃあ桜花城に帰ろうか!」
俺は意気揚々と宣言する。
紅葉も、その力強い声に合わせるように、小さく「はいっ」と頷いた。
彼女の瞳には、もうさっきまでの不安は微塵も残っていないようだった。
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