俺はエリオット王子に認められ、左手が解放された。
これで両手が自由になったことになる。
「それで、ナイトメア・ナイト殿が『やってみたいこと』は何だ?」
「ああ、それなんだが……。ちょっと待っていてくれ」
俺はそう言ってエリオットを止める。
そして、少し離れたところで待機していたメルティーネを手招きする。
「もう俺の安全性は証明されただろう? メルティーネ、こっちに来てくれ」
「はい……。ナイ様、何を……?」
俺が呼ぶと、メルティーネがトコトコとやってくる。
彼女は不思議そうな表情で俺を見ている。
そんな彼女を、俺はギュッと抱きしめた。
「ひゃっ!? ナイ様……?」
「メルティーネ……。お前は本当に可愛いな……」
俺はそう言って、メルティーネの頭を優しく撫でる。
そんな俺たちをエリオットが怪訝な表情で見ている。
護衛兵たちも、キョトンとした表情だ。
「えっと……ナイトメア・ナイト殿? それはいったい、何のつもりだ……?」
エリオットが質問する。
「ん? いや、メルティーネが可愛いと思って……」
俺はそう答えながら、彼女を抱きしめ続ける。
もちろん、これはただの愛情表現だ。
彼女に触れていると癒やされるからな。
メルティーネが可愛いというのは本心だ。
「あの、ナイ様……? その……エリオット兄様の前ですし……」
一方、メルティーネは恥ずかしそうにしている。
まぁ普通の反応かもしれない。
だが、俺は止まれない。
「せっかく両手が解放されているんだ。今までまとも触れることができなかったメルティーネを、存分に愛でることにしようと思ってな」
俺はそう言いながら、さらに強くメルティーネを抱きしめる。
彼女の髪からはいい匂いがした。
海水で濡れているはずなのだが、なぜかフローラルな香りも感じられる。
メルティーネは人魚族だし、そういう生態なのかもしれないが……。
とにかく癒やされるなぁ~。
「はわわ……。恥ずかしいですの……」
メルティーネは頬を赤らめながら、俺の抱擁から逃れようともがいている。
だが、本気で逃げるつもりはないようだ。
恥ずかしがっているだけだろう。
「メルティーネ……。愛しているぞ……」
ちゅっ。
俺は思わず、メルティーネに口づけをした。
「はわわ……。ナイ様……」
メルティーネがますます顔を赤くする。
心なしか、彼女の体が熱くなっているように感じた。
「ちょっと待ってくれ! ナイトメア・ナイト殿、メルティーネとどういう関係なんだ!?」
エリオットがそう叫ぶ。
護衛兵たちも驚愕の表情を浮かべている。
「もちろん、恋人同士だが……?」
「な、何だと!?」
エリオットは驚愕の表情のまま固まっている。
まさか、ここまで驚かれるとは……。
「俺が水中でも呼吸ができるのは、メルティーネが初キッスで加護を与えてくれたからだ。その事実を知らなかったのか?」
「そ、それは知っているが……! ジャイアントクラーケン戦でのゴタゴタで、貴殿を救助するためにメルティーネが加護を与えたと聞いている。だが、まさか……恋人になっていたとは……!」
「ああ、いや……」
俺は言い淀む。
正確ではない情報が伝わっているようだ。
メルティーネが俺に加護を与えてくれたのは、ジャイアントクラーケン戦よりもっと前のことである。
龍神ベテルギウスと戦っているとき、たまたま出会って一目惚れされたのだ。
そして、その場で初キッスをいただいてしまった。
あの勢いは凄かったなぁ……。
「細かい事情はともかく、俺とメルティーネが相思相愛なのは事実だ。いずれは、種族の壁を超えて婚姻することもあるだろう」
「はわわ……」
メルティーネが恥ずかしそうに、自分の頬に手を当てる。
そんな仕草も可愛いなぁ……。
俺のハーレムに、人魚族を追加する日も近いかもしれない。
「いや、待て! さすがにそれはおかしいだろう!? 人族と人魚族の夫婦なんて聞いたことがないぞ!!」
エリオットが叫ぶ。
彼は王族として、人族への偏見が控えめだったはずだが……。
「種族の違いなんて些細な問題だ。大切なのは、心だよ」
「いや、それはそうかもしれないが……!」
「俺とメルティーネを祝福してくれよ。義兄上」
「あ、義兄上……だと!? ふざけるな!!」
エリオットが叫ぶ。
……少し時期尚早だったか?
彼はシスコンなのかもしれない。
ただでさえ王族の婚姻はデリケートな上に、相手が人族(俺)という事情もある。
(もっと慎重に行動した方が良かったかな……)
俺は反省する。
エリオットの感情を害しては、メルティーネも悲しむだろう。
ここは慎むことにするか。
しかしそんな俺の思いとは裏腹に、さらに場を混乱させる出来事が起きる。
それは――
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