「ふぅ……。素晴らしい時間だったな。ティーナ」

「ピピッ……。そう言っていただけると、当機も幸せです」

　俺はティーナと共に横になり、余韻に浸っていた。

　お互いの身体が汗にまみれている。

　しかし、嫌悪感はない。

　むしろ心地良い感じだ。

「ティーナは本当に可愛いな。いや、外見だけじゃないぞ。その内面も……な」

　俺はティーナの髪を優しく撫でる。

　彼女が嬉しそうに微笑む。

　その顔は赤く染まっていた。

「ピピッ……。と、当機に深刻なエラーが発生中です……」

「なに？」

　古代アンドロイドのティーナにエラーが発生しているだと？

　そう言えば、さっきも何かそのようなことを言っていたな……。

　彼女が自己解決できるレベルのエラーなら問題ないが、そうでなければ大変だ。

　俺に古代アンドロイドの修理技術なんてあるはずもない。

「どういうことだ、ティーナ？　何が問題なんだ？」

「ピピッ……。そ、そのですね……」

　ティーナがモジモジする。

　なにか言いづらいことなのだろうか？

「どうした？　言ってみてくれ」

「ピピッ……。マスター登録をした個体名：タカシ＝ハイブリッジに対する、当機の演算処理能力を上回る大きな感情値の変動を確認中です……」

　ティーナがつぶやく。

　演算処理能力を上回る大きな感情値の変動？

　よく分からん。

　難しい言葉ばかりを使われると、俺の脳では理解しきれない。

「つまり、どういうことだ？」

「と、当機はマスターを……。その、男性として好ましく感じているようです……」

　ティーナが顔を真っ赤にしながら言う。

　俺はしばらくポカンとして、彼女を見つめていた。

「そ、それはつまり……」

「ピピッ……。お、おかしなことを言っているのは当機も理解しています。機械知性が人間種を好きになるなんて、馬鹿げた話です」

「…………」

「当機にそのような機能はないはずでした。マスター登録をした者への奉仕感情はあっても、個体として過度の好意を抱くなど……。当機の疑似感情プログラムに深刻なエラーが発生してしまっているようです……」

　ティーナがもじもじする。

　まさか、こんな展開になるとはな。

「マスターのことを考えるだけで、当機の演算処理能力が大幅に低下しています。このままでは、任務に支障を来す可能性もあります」

「ん？　そうなのか？」

「はい……。マスターにはご迷惑をおかけしている状態です。役立たずの当機は廃棄処分されることを推奨します……」

　ティーナが沈んだ声を出す。

　どうやら、本当に深刻なエラーらしい。

　即座に機能停止したり暴走したりする様子はないが、なるべく早く解消しておいた方がいいだろう。

「廃棄処分？　そんなことをするつもりはない。俺がなんとかする」

　俺は即答した。

　古代アンドロイドのエラー。

　正直、よく分からん。

　しかし、彼女は既に俺の女だ。

　アンドロイド？

　人工知能？

　疑似感情？

　そんなこと、俺たちの愛の前では些細なことだ。

　愛する者を救うために、俺は頑張らなければならない。

「ピピッ……。マスター？」

　ティーナが俺を見つめる。

　彼女のエラーを解決するには、どうするべきだろうか？

　俺は思考を巡らせた。

　すぐにでも解決しようとするなら、できることは限られる。

　チートスキル『ステータス操作』を利用し、古代アンドロイドの人工知能や疑似感情に関するスキルを探して取得するぐらいだろうか？

　だが、それは望み薄だ。

　俺は今までに何度もスキルの取得候補を見てきたので、おぼろげながらも一通りのスキル名は把握している。

　しかし、『古代アンドロイド製造術』や『古代知識』などというスキルを目にしたことはない。

　強いて言えば、『魔道具作成術』や『魔道具操作術』あたりは悪くないかもしれないが……。

　確証が持てない。

　別にスキルポイントを出し惜しみしているわけではなく、安易に判断するのが危険だという話だ。

　ホイホイとスキルポイントを消費した後に、実は他のスキルが有効そうだと気付いても遅いからな。

「お前は俺の愛する女だ……。絶対に見捨てたりしないぞ」

「ピピッ……。マスター……」

　ティーナが顔を赤らめる。

　そして俺は、１つの光明を見つけたのだった。