さらに数日後――
「よう、戻ったぞ」
俺は日中の活動を終え、武神流道場へと戻った。
ここ最近、俺は『謀反衆』のリーダーとして精力的に諜報活動に勤しんでいる。
一方の紅葉、流華、桔梗は武神流道場の敷地内で修行だ。
紅葉は概ね我流のまま植物妖術を練習中で、流華は無月に忍術を指導してもらい、そして桔梗は祖父でもある武神流師範に剣術を教わっている。
現状の戦闘能力という点で最も優れているのは、桔梗だろうか。
元より彼女の剣技は大人顔負けの域に達していたが、武神流の指導方針により身体強化系の技術は学んでいなかった。
先日のゴタゴタの影響もあり、ついに身体強化系の技術指導が解禁され、彼女は大幅なパワーアップを遂げている。
次に強いのは、流華だろう。
元スリの少年である彼は、身のこなしが軽い。
栄養失調気味で筋肉量が不足していたのだが、今は少しずつ肉が付いてきている。
筋肉ムキムキというよりは脂肪分による『ふっくら』という感じなのが気になるが、まぁ許容範囲か。
俺のペラペラな正義感によって失われた彼の右手首だって、俺の治療魔法と確かな食生活によりほぼ完治した。
無月のように、『諜報活動がメインだがいざとなればそこそこ戦える忍者』というのが彼の一つの目標だ。
そして、紅葉。
3人の中で、1対1での戦闘能力に不安が残るのが彼女だ。
元々の栄養状態としては流華より少しマシだったのだが、それでもやはり栄養不足だったことは間違いない。
村でギリギリ平和に生きてこれたというのは良い話である一方、流華のような『持たざる者特有の思い切りの良さ』が彼女にはない。
それに、桔梗のように幼少期から剣術の指導を受けていたわけでもない。
そのため、現時点での戦闘能力は下なのだが……。
彼女の良さは、村育ちとは思えないその知識量や頭の回転の速さだ。
特に植物関連の知識は豊富で、植物妖術の習得に繋がっている。
まだまだ十全には操れていないが、これからどんどん洗練されていくだろう。
現状の紅葉でも、桔梗や流華の戦闘を後方から援護するぐらいなら可能だ。
さらに忘れてはいけないこととして、俺の加護(小)による恩恵がある。
同世代の子どもと比べて素の身体能力は高くなっているし、スキルも強化されている。
しかも、今後のスキル習得についても成長が促進される。
長い目で見れば、間違いなく強くなるだろう。
問題があるとすれば、桜花城を攻め落とすまでにそれほどの時間があるかどうかだが……
「ん? みんな、もう鍛錬を終えて就寝したのか……」
俺は気付く。
武神流の道場に、誰も残っていないことに。
「おかしいな。いつもなら俺が帰るまで起きて待っててくれるのに……。時刻だって、まだそんなに遅くは――あれ?」
俺は道場の外を再確認する。
よく見てみると、道場の外は真っ暗だった。
どうして気付かなかったのだろう?
日中の諜報活動に、ちょっと集中しすぎてしまっていたか?
「まぁ、たまにはそういうこともあるか。今日のところは俺もゆっくり休んで……」
俺は小さく伸びをしつつ、誰もいないはずの武神流道場の奥へと進む。
そこには……
「待て、高志よ」
「え?」
暗闇の中から声をかけられ、俺は思わず立ち止まったのだった。
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