兄貴たちと今代六武衆との戦いを止めるため、走る。
俺、ミティ、アイリス。
国王バルダイン。
姫巫女マリア。
先代六武衆のクラッツ、タニア、ラトラ、セルマ。
総勢9人だ。
マリアはバルダインがおんぶしている。
遺跡地帯に入る。
兄貴たちと別れた場所に近づいていく。
無事でいてくれ。
祈りながら、目的地にたどり着く。
視界に入ってきたのは。
赤。
血だ。
赤い血で辺りが染まっていた。
「な……、これは……!」
『一体何ごとだ……! 六武衆が全滅だと……!』
今代の六武衆の面々が血だらけで横たわっている。
クレア、ソルダート、ギュスターヴ、セリナ、ディーク、フェイ。
全滅だ。
「潜入組も全滅……? 一人残らず……?」
俺といっしょにここに潜入した面々も、血だらけで横たわっている。
アドルフの兄貴、レオさん、マクセル、ギルバート、ジルガ、ストラス、ウッディ。
全滅だ。
俺はアドルフの兄貴に駆け寄る。
「兄貴!!! なぜ!? 兄貴がいてどうしてこんなことに!?」
脈はある。
気絶しているようだ。
『ぬう……。一体何が起きたいうのだ。相打ちか……?』
『陛下! あそこに人影が!』
クラッツがそう叫ぶ。
部屋の奥。
遺跡の壁画の前に、見知らぬ女が立っていた。
壁画が何やら光っている。
なんだ?
「うふふ。これは皆様、お揃いで」
『貴様は……、セン! いったい何のつもりだ!』
バルダインはこの女を知っているようだ。
名前はセンと言うらしい。
「あら? 闇魔法を解かれてしまったのですね、陛下。闇の水晶が割れたので、そうかもしれないとは思っていましたが。希少なものですのに。残念ですわ」
『闇魔法だと!? ……やはり、貴様が全ての元凶か!』
「その通りですわ。わたくしの手のひらの上で、よく踊ってくれました。お礼を言いますわ」
このセンという女が黒幕か。
そうとわかれば。
「ただで帰れるとは思わないことです。企んでいることを、洗いざらい話していただきます」
俺はそう言って、構える。
「あら怖い。でも、わたくしはもう目的を果たしましたの。無駄な戦いは避けたほうがお互いのためですわ」
女が退却の姿勢を取る。
『ただで返すと思うな! 部下の敵だ! 鬼王痛恨撃!』
バルダインの必殺技だ。
センがヒラリと躱す。
まだだ。
「ゲ・ン・コ・ツ! メテオ!」
「炎あれ。我が求むるは豪火球。十本桜!」
ミティの投石と俺の火魔法が女を襲う。
これは避けきれないだろう。
「やったか!?」
煙で女の様子は見えない。
「まだだよ! ……そこ!」
アイリスが、逃げる女を捉える。
「豪・裂空脚!」
アイリスの強烈な回し蹴りがセンを襲う。
「情報よりもずっと強力な火魔法、投石、そして蹴り……。認識を上方修正しましょう」
センは、アイリスの回し蹴りを防いだ。
聖闘気を纏ったアイリスの攻撃を防ぐとは。
かなりの力だ。
「せえぃっ!」
アイリスよりも若干遅れたが、俺も剣術で追撃に加わる。
センは懐から剣を抜き、俺の剣を防いだ。
剣術レベル4に加え、ステータス強化系のスキルも取得している俺の剣を、あっさり防いだだと……。
「あら? 剣での戦闘も、想定よりもずっとお強いですね……」
アイリスにせよ俺にせよミティにせよ、事前に何らかの情報が流されていたようだ。
だが、ステータス操作の恩恵により、俺たちの成長速度は尋常ではない。
通常の成長想定範囲を大きく越えていることだろう。
「うふふ。お強い殿方は好きですよ。思わずどきどきしてしまいますわ」
センはずいぶんと余裕がありそうだ。
『我らを忘れてもらっては困る! 覚悟!』
クラッツたちもこちらに近づいてくる。
「うふふ。わたくし1人では、さすがにこの人数を相手にするのは無理ですね。不意打ちならばまだしも……」
「それはそうでしょう。1対9で勝てるとは思わないことです!」
あまり舐めてもらっては困る。
「もう少し楽しみたいところですが、仕方ありませんわね。……エアバースト!」
女が風魔法を発動させる。
空気の大砲だ。
俺とアイリス、それにクラッツたちは、たまらず弾き飛ばされてしまった。
「では今度こそさようなら」
女の足元に魔法陣が浮かぶ。
なんだ?
転移魔法か何かか?
追撃する時間もなく、女の姿が消えた。
「逃げられたか……」
俺はそう呟く。
『過ぎたことはいい。それよりもこやつらの治療だ! まだ息はある!』
みんなで、倒れている人たちの介抱を始める。
「……へっへっへ。無事に国王との話はできたみたいだな」
「兄貴! しゃべらないで! 今、治療魔法をかけます!」
レベル1のキュアを発動する。
何度も重ねがけする。
少しずつ治ってはいるようだが、やはりレベル1は効果が薄い。
思い切って治療魔法を強化するか。
こういう不測の事態に対応するために、わざわざスキルポイントを余らせておいたのだ。
スキルポイントを15使用し、治療魔法をレベル1からレベル3に強化する。
治療魔法レベル2はヒール。
レベル1のキュアの強化版みたいな感じだ。
キュアよりも多少大きな外傷を治療することができる。
また、ちょっとした解毒効果もあるようだ。
治療魔法レベル3はエリアヒール。
一定範囲内にいる人を同時に治療できる。
回復効果はヒールと同程度。
消費MPと詠唱時間はヒールより大きい。
魔法関連のスキルをたくさん取得しているため、消費MPも詠唱時間もさほど気にならない。
MP強化レベル3、高速詠唱レベル1、MP消費量減少レベル2、MP回復速度強化レベル1などが役に立っている。
まずはエリアヒールでみんなを回復しよう。
「……神の御業にてかの者たちを癒やし給え。エリアヒール」
潜入作戦参加者の、アドルフの兄貴、レオさん、マクセル、ギルバート、ジルガ、ストラス、ウッディ。
六武衆の、クレア、ソルダート、ギュスターヴ、セリナ、ディーク、フェイ。
彼らがエリアヒールにより治療されていく。
エリアヒールによる回復が一段落した後、重傷者から優先的にヒールで回復していく。
幸い、全員が一命はとりとめたようだ。
「……へっへっへ。まさか中級の治療魔法まで使えるようになっているとはな」
「……期待以上だぜ、タカシ。ギャハハハ」
『まさか人族に助けられるとはな。……バルダイン様、状況をお教えください』
六武衆の1人が代表してそう言った。
彼女はハーピィのクレアだ。
目の黒いモヤは、なくなっている。
澄んだ瞳だ。
『うむ。どうやら我らは、あの女の闇魔法により洗脳されていたようだ。我も、記憶は残っているが、どこか他人の行いを見ているかのようだ』
『そうですね。……私も、取り返しのつかないことをしてしまいました。クラッツを、この手で……』
クレアが沈んだ顔でうつむいている。
『ふっ。私を呼んだか?』
クラッツが決め顔でそう言う。
クレアが顔を上げる。
『クラッ……!? いえ……、お父さん!』
クレアがクラッツに抱きつく。
『ごめんなざい! わたし、わたし……』
『仕方がないさ。あの女の闇魔法は強力だった』
闇魔法。
人を洗脳する力か。
恐ろしい魔法だ。
『でも、でも……』
『それにだ。お父さんは、クレアにはまだまだ負けるつもりはないぞ。あの時は負けたふりをしただけさ。湖の底にある遺跡で、古代遺物を探していたのさ』
クラッツはそう言って、古めかしいアクセサリーを見せる。
バルダインの闇魔法を解くときに使っていたアクセサリーだ。
俺たちが潜入してくるより前に、クレアたち今代六武衆と、クラッツたち先代六武衆の戦いがあったようだ。
クラッツたちは一計を案じ、負けたふりをして裏で行動していたというわけか。
「へっへっへ。とにかく、あの女が黒幕で間違いないだろうな。俺たちを戦闘不能に追い込んだ後、壁画を熱心に見てやがったぜ。血が足りず意識を失っちまったから、その後はわからねえが」
『この壁画に何かすることが目的だったのかもしれん。見ろ、壁画が光っている。調査が必要だ』
バルダインがそう言う。
『しかし、この面々を戦闘不能に追い込むとは、あの女の実力はかなりのものだな……』
クラッツがそう言う。
『クラッツさん。あれは、不意打ちだったの。今度はこう簡単には負けないの』
敏捷のセリナがそう言い訳をする。
不意打ちなら仕方がないか。
実際、兄貴たちとクレアたちとの戦いは接戦だったのだろう。
何人かは既に戦闘不能の者もいたはず。
そこに、センが不意打ちしたのなら、1対多数でセンが勝ってもおかしくはないか。
とはいえ、その後の俺やバルダインたちの攻勢を防ぎ、まんまと逃げおおせたのは事実だ。
かなりの実力者なのは間違いない。
何か企んでいるようだったし、今後も敵対することがあるかもしれない。
要注意だ。
何にせよ、死人が出ずに戦いが終わってよかった。
ゾルフ砦での防衛戦では死人が出ている可能性もあるが。
少なくとも、俺たち潜入組や、国王夫妻、六武衆などには死人が出ていない。
とりあえずはヨシとしておこう。
ふと、空を見上げる。
青く晴れ渡る爽やかな空が広がっていた。
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