モニカやマリアたちが聖女リッカと交戦してから数時間後――。
リンドウに朝が訪れようとしていた頃、彼女たちはタカシと合流した。
「タカシさん、無事だったのですね」
「心配しましたわ~」
サリエとリーゼロッテがタカシへと声を掛ける。
他の面々も、タカシの無事な姿を見てホッと胸を撫で下ろした。
「俺は無事だぞ? アビーに指示して、ラーグへ手紙を送ってもらったはずだが……」
「『はいぶりっじ男爵が聖女りっかに襲撃された』としか書いてなかったでござる」
「ああ……なるほどな……」
確かにそれでは状況が全く分からないだろう。
文面を考えたアビーが慌てていたため、情報が不十分になってしまっていたようだ。
タカシは少し考えて、それから口を開いた。
「……実はだな――」
彼はこれまでの経緯を仲間たちに伝えることにした。
一通り話を聞いた面々の反応は様々だった。
「へぇ~。いろんなことがあったんだねっ!」
「何はともあれ、お館様がご無事で何よりでした」
マリアは無邪気な笑みを浮かべ、レインは改めて安堵している。
「ふふん。なるほどね。聖女リッカとは敵対したけど、最後は友好的に別れたってことね」
「なら、彼女には悪いことをしちゃった。最後まで追撃しちゃったし……」
ユナとモニカは、少し申し訳なさそうな様子だ。
「追撃? リッカと何かあったのか?」
「然り。彼女とは西の森で交戦したでござる」
「な、なんだと!? みんな無事なのか!?」
「は、はい。みんなで力を合わせて撃退しました」
驚くタカシに、ニムが答える。
それを受けて、今度はミティとアイリスが驚きの表情を浮かべる。
「そんなバカな……。私たち3人でも勝てなかったのに……」
「うぅ……。武闘神官としてたゆまぬ努力をしてきたつもりだったのに……。ショックだよぉ……」
「まあ、そういうこともあるって! 元気出せよ、二人とも!」
落ち込む二人に、タカシが元気よく声を掛けた。
三人の中でもっともボコボコにされたのは彼なのだが、あまり気にしていないようだ。
彼はさほどプライドが高くない。
しかし、例えば『愛する妻の前で、同格以上の”男”からボコボコにされる』ような事態は回避しようとするだろう。
みっともないところを見られれば寝取られが発生するリスクがあるからだ。
その点で言えば、女性である聖女リッカに惜敗したことぐらいは許容範囲なのだろう。
「でも……。私は第一夫人であり、ミリオンズのサブリーダーです。タカシ様にとっての最強の矛であることこそ私の存在意義だというのに……!」
「ボクだって……。鍛えてきたのは無辜の民を守るためでもあるけど、同時にタカシや大切な仲間を守るためでもある。それなのに、まともに戦うことすらできずに震えていたなんて……。自分が情けないよ……」
普段は強気で、イケイケドンドンのミティ。
普段からマジメで、ミリオンズの中でも精神面で安定しているアイリス。
そんな二人が、珍しく落ち込んでいる。
彼女たちの中で何か思うことがあるのだろう。
(うーむ……)
そんな二人の様子を見て、タカシは考える。
気にするな、なんて安直な言葉をかけるだけではダメだ。
きっと二人はそれを望まない。
(こういうときは……)
彼の脳裏に一つの考えが思い浮かんだ。
(そうだ!)
そして――おもむろに立ち上がると、声を張り上げる。
「よし! 今から訓練をするぞ!」
唐突な宣言に一同がポカンとする中、タカシはさらに続ける。
「俺たちはパーティだ。それぞれにできること、できないことがあるんだ。俺、ミティ、アイリスの3人パーティでは、聖女リッカに勝てなかった。しかし、他の8人のパーティでは聖女リッカを撃退できた。こればかりは相性の問題もあり、必ずしも改善できるとは限らない」
そこで一旦言葉を区切り、全員を見渡す。
「だから、改めて互いの長所短所を把握しようぜ。互いに足りない部分を補うように連携して戦えば、どんな敵にも勝てる。今思えば、リーダーとしての俺の判断も甘かった。増長していた。俺、ミティ、アイリスの組み合わせだけじゃ、対応しきれない敵がいるかもしれないことを思い知った」
そう言うと、彼はさらに言葉を続ける。
「いいか? 俺たちミリオンズの中に『最強』は存在しないんだ。それぞれが得意な分野を生かしつつ、弱点をカバーしあうことで初めて強いパーティになるんだよ」
タカシの言葉を受け、全員がハッとした表情を浮かべた。
「そうですね。私たちは『最強のパーティ』を目指すのです」
「うん。ボクももっと頑張ろうっと!」
「そうだね。なんだかやる気が出てきたかも!」
「私も、足手まといにならないように頑張ります!」
ミティ、アイリス、モニカ、レインの4人が口々に言った。
他の面々も表情が引き締まっている。
どうやら、皆の心に響くものがあったらしい。
「よーし! それじゃあ早速訓練を始めようぜ! そして、それが終わったら――」
「いよいよ大和連邦に向かうでござるな! ああ、その前に古都『おるふぇす』で小型隠密船を手に入れるのでござったか!」
蓮華が興奮気味に声を上げる。
諸々の事情で長い時間が掛かったが、ようやく彼女にとっての故郷に帰ることになる。
彼女の故郷はいろいろとキナ臭い状況にあり、タカシが活躍できる可能性も高いだろう。
彼としても、ヤマト連邦に行くことに否やはない。
しかし――
「待て待て。何も今日明日に出発しようって話じゃないだろ? 訓練後には、他にやるべきことがある」
「他にやるべきこと、でござるか?」
首を傾げる蓮華に対し、タカシは大きく頷く。
「ああ、そうさ。今回は長旅になるだろう。最後に――みんなで温泉を堪能するべきだと思う!」
タカシが堂々と宣言する。
「ふふん。本当にタカシは混浴が好きねぇ」
「そ、そうですね。タカシさんはエッチです……」
「えへへっ。でも、マリアはみんなとのお風呂、好きだよっ!」
ユナ、ニム、マリアがそれぞれ反応を示す。
他の面々の反応も様々だが、強い拒否感を示している者はいないようだ。
彼女たちの様子を見て、タカシも満足そうに頷く。
その後、彼らはパーティとしての連携を確認した後、家族温泉で再び絆を確かめあった。
そして、ラーグに帰還後に諸々の準備を整え、タカシはオルフェスに向けて旅立ったのだった。
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