「おらぁっ! 【ドラゴニック・バースト】ぉお!!」
俺は幻影たちに全力の闘気をぶつける。
彼らの多数が闘気の奔流に飲み込まれていくが――
「だから言ってるだろうが! 『ヴァース・スタイル』の装甲は、そんな攻撃など通さない!」
「ふふ……。『ネクロマンティック・スタイル』は物理攻撃を無効化するぞ……」
一部の幻影たちは余裕の表情で立っている。
やはり、様々な特化型を同時に相手取るのは厳しい……。
「ボーっとしている暇はないぞ! 【閃火烈光拳】!!」
「こっちもくらえっ! 【紅剣インフェルノ】ぉお!!」
幻影たちの攻撃が激しさを増す。
1対1なら何とかできそうな相手ではあるが、複数人となるとキツイぞ……。
「ぐっ……! ――【神の雷槍】!!」
俺は雷を召喚し、それを幻影たちに叩き落とす。
だが、やはり彼らを一網打尽にするほどの威力はない。
「貴方に勝ち目はありません。諦めなさい――【月牙】」
「無駄な足掻きは見苦しいでござる。――【無明斬】!」
俺は幻影の斬撃にかろうじて対処する。
やはり、こいつらは強い……。
さすがは並行世界の俺を再現した幻影と言ったところか。
俺は防戦一方となってしまう。
「ふん。他愛のない……と言いたいところだが、褒めてやらんでもないぞ?」
「そうだな。浮気者を認めるのは心外だが……お前の実力は実際大したもんだ」
「くっ……!」
水と火、二つの魔力の塊が俺に襲いかかってくる。
俺はそれらを何とかはじき返した。
しかし、その隙に雷速の幻影が俺に肉薄する。
「我ら歴代の巫女が封印してきた猛者の中でも――屈指の強さだ!!」
バリリリィッ!
電気を纏った強烈な蹴りが俺の腹部に炸裂する。
「あ……ぐ……」
俺は思わずうずくまる。
そして、幻影たちは俺を取り囲むように並んだ。
「かろうじて急所は避けたか……。やるな」
「だが、そのダメージではもう動けまい」
「貴方はここで死ぬのです。それが貴方の運命……」
「地下遺跡の守護者としての責務を果たさせてもらおう」
幻影たちが俺に剣先を向ける。
彼らは俺の幻影だ……。
並行世界の俺を再現した『あり得たかもしれない世界線』の人格や戦闘能力を持つ。
だが……あくまで幻影。
その本来の人格は、地下遺跡の巫女イノリ。
彼女の意思が発言や行動にもいくらか反映されているらしい。
同じ俺とはいえ、イノリの人格が混ざっているため見逃してくれそうにはない……。
「それではお別れです。貴方の魂は……この地下遺跡で永遠に彷徨うでしょう」
幻影たちが一斉に飛びかかってくる。
もう駄目だ……。
絶体絶命とは、まさにこのこと……。
せめて、最後にミティやアイリスたちの声を聞きたかったなぁ……。
そんなことを考えていると――
『タカシ様っ!!』
『タカシ!』
俺の大好きな声が響き渡った。
……ような気がした。
幻聴か?
いや、違う!
共鳴水晶が光っている。
ミティ……。
アイリス……。
モニカ……。
ニム……。
ユナ……。
マリア……。
サリエ……。
リーゼロッテ……。
蓮華……。
レイン……。
彼女たちの温もりを感じる!
それに、共鳴水晶を持っていないみんなとの温かい記憶も蘇ってきた!
「うおおおおおぉおおっ! 俺は……俺は!!!」
俺は叫ぶ。
ダメージは甚大で、まだ立ち上がることはできない。
だが、体の底から絞り出した魔力と闘気があれば、一時的に幻影たちを遠ざけることはできる。
「なっ!? そんなバカな!?」
「あり得ん!」
幻影たちは驚愕の声を上げる。
俺はゆっくりと体の調子を確認し、戦闘態勢を整えていく。
そのときだった。
『……レム…………』
俺の脳裏に、厳かな声が響き渡る。
これは……。
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