俺は建造中の『リンドウ図書館』を目撃した。
そして、それを取り仕切っている謎の男を問い詰めるべく、仮設事務所に向かった。
「さて、いったい犯人は誰なのか……。――むっ!? 鍵がかかっている!?」
仮設事務所と思しき建物の前まできたものの、扉の前で俺は立ち往生する。
扉にはしっかりと鍵がかかっていたからだ。
しかし――
「くっくっく。この俺を簡単に出し抜けると思うなよ! この程度の扉、鍵があろうとなかろうと、俺には関係ない!! はあああぁっ!!!」
俺は闘気を開放して、扉を強引に開ける。
バゴッ!
「な、なんだ!? これは――」
俺は仮設事務所の中に入ろうとして、驚愕する。
なぜなら――
「……っ」
そこに広がっていたのは、大量の人骨だったからだ。
壁にも、床にも、机や椅子の上にさえも。
人骨が散乱している。
「い、いったい……何が起こったんだ?」
建造中の『リンドウ図書館』。
ここは、そのための仮設事務所だったはずだ。
人骨が散乱しているような状況になっているとは、想像もしていなかった。
「とりあえず引き返して……バカな!? 出口がなくなっている! それに、ここはこれほど広い建物だったか……?」
来た道を戻ろうと振り返った俺は、出口がないことに気が付く。
いや、正確には出入りするための扉がないのだ。
しかも、入る前に認識していた建物の大きさよりも明らかに広くなっている気がする。
まるでこの仮設事務所だけが、切り離された別世界になってしまったかのようだ。
「むっ! 曲者……! って、もしやたかし殿でござるか!?」
「この声は……蓮華!?」
俺は声のした方を向く。
すると、そこには見知った顔があった。
「おお、やはりたかし殿であったか!!」
そこにいたのは蓮華だ。
金髪碧眼のエルフ。
ヤマト連邦の出身であり、和服と刀がよく似合う美少女である。
「たかし殿も、ここに来ていたのでござるか。帰還してさっそくとは、好きでござるなぁ」
「好き? ……まぁ、俺は確かに蓮華が好きだが……」
俺を除いたミリオンズのメンバーは、10人。
俺が迎えた妻は、第八夫人までいる。
つまり、2人だけが妻入りしていないわけだ。
1人はメイドのレインで、もう1人が蓮華である。
妻にはなっていないが、深い仲にはなっている。
好きであることは否定しようがない。
「ふぇっ!? た、たかし殿! いきなり何を言い出すのでござるか!? そ、そんなにはっきり言われると……はぅ」
蓮華が顔を真っ赤にして、両手で頬を押さえている。
その姿は可愛いのだが、今はそれどころではない。
「蓮華、この人骨は……」
「む? これはとりすた殿の――いや、違った。彼らは犠牲者でござる。ここは世界滅亡を企む悪の総帥、とりすーた殿の根城でござるからな」
「悪の……総帥?」
「左様。ここは、悪の巣窟でござる。この骨は、その犠牲者たちの……」
蓮華が言いかけて、言葉を止める。
そして、険しい表情で俺を見る。
いや、正確には俺の背後を見ているようだ。
「ふはははは! よくぞ我が根城を突き止めたな! 褒めてやろう!!」
背後から、声が聞こえてくる。
俺は蓮華との話をいったん中断し、背後へと向き直った。
そこにいたのは――。
「トリスタ?」
「あれ? ハイブリッジ男爵? どうしてここに?」
そこにいたのは、トリスタだった。
彼は黒いマントを着ており、いかにも悪の総帥という貫禄を醸し出している。
「トリスタ……! お前がラスボスだったとはな……!!」
思わぬところに敵がいたものだ。
世界滅亡を企む敵だろ?
もっとこう、すごい展開で決戦でも行うのかと思っていたぞ。
ヤマト連邦の将軍とか、聖ミリアリア教会の教皇とか、冒険者ギルドのトップとか、中央大陸にある大国の皇帝とか、あるいは異世界の魔王とか……。
最終決戦に相応しい相手はいくらでもいると思う。
まさか、自分の配下にラスボスがいたとは予想外だ。
「あー……蓮華さんが誘ったのかな? ちゃんと言ってくれればいいのに」
「なに?」
「――ゴホン! 我が名はトリスタではない! トリスータである!!」
「なっ!? トリスタは偽名だったのか!? ヒナはこのことを知っているのか!?」
加護(小)を付与した際のステータス欄には、間違いなく『トリスタ』という名前が記載されていたように思う。
まさかそれが偽名だったとは……。
ステータス欄まで偽装できる謎の能力でも持っているのだろうか?
そして、彼は結婚しており、ヒナという幼なじみの嫁がいる。
彼女のことすら騙していたということか?
愛する妻を裏切るなど、万死に値する。
「たかし殿! 野暮な質問をしては、興が削がれるでござる! ちゃんと世界観に入り込むでござる! ここは一つ、戦いで勝負を!!」
「野暮? 世界観? いったい何の話を――むっ!? 蓮華、この木剣で戦えと? 柔らかい布を巻いているみたいだが……」
「左様! これこそが、悪の総帥を倒すことができる唯一の聖剣!!」
「なっ!? こ、これが聖剣……!!」
胸が高鳴ってくるのを感じる。
紅剣アヴァロンも良い剣だが、聖剣という単語を聞くとテンションが上がってくるのは仕方がない。
心なしか、この剣を握ると力が湧いてくるような気がする。
「ふはははは! 我が野望を止めたくば、我を倒してみるのだな!!」
トリスタは、いかにもラスボスが言いそうなセリフを吐く。
そしてその言葉が合図であったかのように、俺とトリスタは戦いに突入していった。
俺たちのラストバトルが今、始まる!!!
――――完。
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