食事会を楽しみつつ、ハイブリッジ家の配下を自慢している。
雪月花、トミー、アランたちの紹介を終えた。
「続きましては、魔導技師のジェイネフェリアです! 彼女はハイブリッジ家から支援を受け、日々魔道具を開発しております! 『透明マント』や『魔法の絨毯』を始めとする魔道具の数々は、ハイブリッジ騎士爵も高く評価しておられます!」
呼びかけに応じて、杖を手にした少年が現れる。
その瞬間、会場の雰囲気が一変した。
「おお……。あれが、あの有名な……?」
「間違いない。あの小さな体で、多くの魔道具を開発した天才少女だ」
「ハイブリッジ家からの潤沢な資金提供により、魔道具の開発が加速しているらしい」
「凄いな……」
参加者たちは口々に呟く。
しかし、それは無理もないことだ。
ジェイネフェリアは俺が想像していた以上に優秀だった。
御用達魔導技師として俺から資金提供を始めてからというもの、高品質かつ独創的な魔道具を生み出している。
彼が一歩前に出て、得意げな表情を浮かべる。
「皆さん初めまして。僕の名前はジェイネフェリアなんだよ。今回は、騎士爵さんからの依頼で、たくさんの『魔法の小絨毯』を用意したんだよ。お土産に持っていくといいんだよ」
「「「「「おぉ~」」」」」
参加者たちが歓声を上げた。
どうやら、かなりの期待が寄せられているようだ。
「今回のは小絨毯だから、1人しか乗れないんだよ。移動手段には適さないけど、自宅の庭とかで遊んでほしいんだよ」
「おお、なるほど」
「確かに、子どもにはちょうどいいな」
「それにしても、不思議な可愛さがある子だなぁ」
「あの笑顔は癒しだ……」
参加者の何人かが怪しげな発言をする。
大丈夫か?
ネリーを含め勘違いしているようだが、ジェイネフェリアは男のはずだ。
俺と風呂で男同士の裸の付き合いをした仲である。
確かに可愛いし、声も高めだけどな。
「しかし、我が家系の魔力量は少ない。あの魔道具をうまく扱えるかどうか……」
「私もだ。せっかくいただいても、宝の持ち腐れになってしまうかもしれない」
参加者たちの一部からそんな言葉が聞こえてくる。
だが、ジェイネフェリアが首を横に振った。
「そんなことないんだよ。この小絨毯には魔石を埋め込んであるんだよ。最低限の魔力さえあれば起動できて、ちゃんと空を飛ぶことができるんだよ」
「なんと!?」
「すごいじゃないか!」
「素晴らしい! さすがはハイブリッジ家!」
一気に評価が上がったようだ。
さっきまで不安そうだった者たちが、一転して歓喜の声を上げている。
「というわけで、ネリーさんに操作方法を説明してもらうんだよ」
「はいっ! お任せください! いきますよーっ!」
このあたりの段取りは事前に打ち合わせされている。
ネリーが魔法の小絨毯に組み込まれている魔石に魔力を込めると、ふわりと宙に浮かび上がった。
「おぉ……」
「これは美しい……」
「まるで天使のようだ」
参加者たちから感嘆の声が上がる。
確かに、ネリーはかなり可愛い。
冒険者ギルドの受付嬢としても人気が高いし、声もよく通る。
今回の合同結婚式や食事会の司会を通して、貴族たちからの好感度が上がっているようだ。
「ふふっ。では、少し高めに飛びますねー!」
ネリーがそう言って、高さ3メートルほどの高さに上がる。
「おお!」
「なんて優雅なんだ……」
「空の旅は最高そうですね!」
参加者たちが大喜びしている。
ネリーは嬉しそうな笑みを浮かべながら、さらに高度を上げていく。
「お、おいおい。それ以上は……」
俺は思わず苦笑いしてしまった。
しかし、時すでに遅し。
ネリーは10メートルほどの高さまできてしまった。
あの小絨毯の出力は控えめにしている。
そのため、あまり無理な高さまで来ると不具合や誤作動が発生するリスクがある。
「あははははははっ!」
ネリーの楽し気な声が響く。
楽しんでいるのはいいのだが、少し気を抜いてしまったようだ。
「あっ! ああああぁっ!?」
ネリーが悲鳴を上げる。
バランスを崩して、そのまま地面に落下し始めたのだ。
「やれやれ。世話が焼けるな」
俺はため息交じりに呟く。
そして、重力魔法のレビテーションを発動させた。
「きゃああぁっ! ……って、あれっ?」
「無事か?」
俺はネリーをお姫様抱っこのような形で受け止めた。
彼女が顔をほのかに赤らめ、こちらを見つめる。
「あ、ありがとうございます。そしてごめんなさい。調子に乗りました……」
「いや、いいさ。ネリーにケガがなくてよかった」
あの高さから落ちれば、地球の感覚で言えば大ケガは免れない。
多少の魔力を扱えるネリーであっても、それなりのケガをしてしまっていただろう。
危ないところだった。
「まぁ、とりあえず降りようか」
「はい……」
ネリーが恥ずかしそうにしている。
そんな彼女の様子を見て、会場にいる女性陣が目を輝かせている。
「はわわ……。ハイブリッジ騎士爵にお姫様抱っこなんて……」
「いいなあ……」
「私もあんなふうに甘えてみたいかも……」
どうやら、女性陣は羨ましがっているようだ。
ネリーが俺の腕から降りる。
「……このように、使い方を誤れば危険もある魔道具です。初めは慎重に使うようにしてくださいね」
俺は参加者たちにそう声を掛ける。
まあ危険度としては、地球における自転車ぐらいのものだろう。
この世界の人々は頑丈なので、多少の高さから落下しても相当に打ち所が悪くなければ死ぬことはない。
「なるほど。注意しておこう」
「しかし、失敗した者を責めもせず心配するとは……」
「甘すぎる気もするが、あれがハイブリッジ騎士爵のやり方ということだろう」
「叱責して伸ばす時代は終わったのだ。これからの時代はスマイルが大切なのかもな」
参加者たちがそう呟く。
俺がみんなに優しいのは忠義度稼ぎのためだ。
純粋に力を伸ばすことだけを考えるなら、激詰めしてストレスを与えまくるのも手段の1つとしてはありだろう。
まあその場合は、忠義度云々を論じるまでもなく、大抵の場合は恨まれてしまうだろうし、ストレスに堪えきれずに脱落する者をたくさん出すことになるけどな。
俺たちの場合、加護さえ付けば能力は大幅に伸びる。
過度に責めず、末永く付き合って仲良く仕事をしていくのがいい。
さて。
これで一通りの紹介は終えたな。
後は、食事会を楽しんでいくとするか。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!