「た、高志くん!」
桔梗の叫び声が、部屋に木霊する。
俺は壁に叩きつけられたまま、しばらく動かなかった。
雷轟は俺に歩み寄ってくる。
「くくっ。流浪人風情が雷鳴流に逆らうからこうなる……」
雷轟は金砕棒を振りかぶる。
そして、それを俺に振り下ろした。
「死ねぃっ!!」
雷轟の一撃が迫る。
俺は動かない。
……『動けない』のではなく、動く必要がないからだ。
「【鉄心】」
俺は雷轟の金砕棒を、肉体で受け止める。
闘気で強化した俺の肉体に、生半可な攻撃は通じない。
「な、何っ!?」
雷轟は驚愕の声を上げる。
だが、俺はそれを無視した。
そのまま彼の金砕棒を勢いよく払いのける。
「ぐおっ!?」
雷轟は大きく体勢を崩した。
彼はそのまま床に倒れ込む。
その隙を見逃す俺ではない。
俺は一気に間合いを詰め、奴の腹に蹴りを叩き込んだ。
「ぐああっ!!」
雷轟は悲鳴を上げ、床を転がる。
そして、腹を抱えながら蹲った。
「ば、馬鹿な……! 儂の攻撃をまともにうけて無事だと……!? 雷鳴流の奥義『雷轟六卦』が通じんとは……」
「『雷轟六卦』……。碓かに、素晴らしい技だとは思う。完成していればの話だが」
「何……?」
「その程度も見抜けないと思ったか? 俺の見立てでは、現状の完成度は75パーセント……8分の6といったところだろう。本来の奥義は、もっと洗練されているはずだ」
「ッ……!!」
雷轟の表情に怒りの色が浮かぶ。
どうやら図星らしい。
「貴様……何者だ?」
「俺は流浪人、高志。今はそれだけでいい」
「くっ……! 舐めやがって……!!」
雷轟は立ち上がると、金砕棒を振りかぶる。
そして、それを振り下ろしてきた。
「それはもういい」
「ぐあっ……!」
俺は刀を振るい、金剛の手首に峰打ちを食らわせる。
金剛は金砕棒を取り落とす。
すかさず、俺はその金砕棒を足で跳ね上げ、その柄を掴んだ。
「いい武器だ。お前にはもったいない。俺が使ってやろう」
俺は金砕棒に闇のオーラを纏わせる。
そして、それを雷轟に振り下ろした。
「ぐああっ……!!」
金砕棒は、雷轟の脳天を直撃する。
彼は白目を剥き、倒れた。
「た、高志くん……!?」
桔梗が声を上げる。
俺は彼女のもとに駆け寄った。
「怪我はないか? 桔梗」
「わ、私は大丈夫……! でも……高志くんが……」
「問題ない」
碓かに、俺は雷轟の攻撃を正面から受けた。
だが、あれは相手の力量を推し量るためにわざと受けたに過ぎない。
「えっと、でも……」
「大丈夫だと言っているだろう」
なおも心配そうな視線を向けてくる桔梗に、俺は答える。
……俺はそんなに打たれ弱く見えるのだろうか?
桔梗の弟子として武神流の剣術を教えてもらう際、闘気や魔力による身体強化を控えめにしてきた影響か?
だが、彼女の目の前で武神流の師範を倒したこともあるし、今だってこうして雷鳴流師範の雷轟をあっさりと撃破してみせた。
もっと俺の強さを信じてくれてもいいのに……。
俺は桔梗の反応に少しばかりの不満を覚えてしまう。
「とにかく、まずは桔梗の拘束を解くぞ」
「う、うん……」
ちょっと不機嫌そうな声色になってしまったか?
桔梗がどこか怯えた様子を見せる。
……駄目だな、俺は。
もっと冷静になれ。
助けにきた対象をビビらせてどうする。
そもそも、無闇に目立たないことはミッション達成のためにも重要なことだし、桔梗に弟子入りしたのも俺自身の判断だ。
別に、桔梗が俺のことを舐めているわけではない。
イライラをぶつけるべきは、雷轟を始めとした雷鳴流剣士の他、桜花七侍や藩主の景春あたりだろう。
「うぐっ……!?」
不意に、俺は激しい頭痛に襲われる。
闇が俺を侵食しようしているらしい……。
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