俺は聖騎士ソーマと決闘を行った。
リーゼロッテやサリエを口説く資格を賭けた決闘だ。
剣技では互角だったが、魔法を込みで戦えば俺がやや優勢。
そのまま決着を着けようとしたところ、彼の様子が急変したのだ。
「ガアアッ! オンナ! オンナをヨコセ!」
ソーマがそう叫ぶ。
どうやら、闇の瘴気の影響下にあるらしい。
目に黒いモヤがかかっている。
「決闘は終わりだ。俺たちミリオンズで、ソーマをおとなしくさせるぞ!」
俺はそう言う。
「うん。ボクとタカシが中心になって戦おう」
俺とアイリスが前線に立ち、ソーマと対峙する。
「観衆の避難誘導は私たちに任せてください!」
ミティがそう言う。
彼女やモニカたちは、群衆の避難をしてくれている。
「ありがとう。おかげで、俺はソーマに集中できる」
さて。
最初にすべきはーー。
「……聖なる鎖よ。敵を縛り、捕らえよ。セイクリッドチェーン!」
俺は中級の聖魔法を発動させる。
「グオォッ! イマイマシイ鎖め!」
ソーマが聖なる鎖により拘束される。
彼の卓越したバランス感覚によりまだ立ってはいるが、手は塞がった。
「神の光よ。今ここに顕現せよ。罪ありしものに聖なる裁きを。パニッシュ」
アイリスが聖魔法により追撃する。
ウィッシュ、ホーリーシャイン、セイクリッドチェーンに続く、上級聖魔法である。
聖なる波動がソーマを襲う。
「グオオオオォッ! ヤメロォ!」
ソーマがそう叫ぶ。
確かな効力を発揮している。
だがーー。
「アイリスの聖魔法でも、瘴気を払いきれないのか」
ソーマの暴走はまだまだ収まりそうにない。
「なかなか厄介だね。彼の魔法抵抗力の高さも関係しているみたい。さすがは騎士爵を授かっているだけある」
アイリスがそう言う。
魔法抵抗力が高いのも一長一短だな。
「よし。俺とアイリスで、練習していた”あれ”を発動させよう」
「そうだね。まさか、これほど早く出番があるとは思っていなかったけど……。ぶっつけ本番でいくよ!」
俺とアイリスは、聖魔法の詠唱を始める。
聖ミリアリア統一教に伝わる、オリジナルの聖魔法だ。
まだ個人単位では発動できないが、合同魔法でならば何とか発動できる。
俺とアイリスの詠唱が、終わりに近づいてきた。
最後の一文句を口にする。
「「汝に!! 裁きの刃を与えん!!」」
俺とアイリスは、ソーマのほうに手を向ける。
「「ソード・オブ・ジャッジメントッ!!」」
たくさんの光の刃が空中に生成される。
シャンッ!
それらが、ソーマに降り注ぎ彼の体を貫く。
「ガ、ガアアアアァッ!」
彼が苦しむ。
この光の刃は、もちろん殺傷力を持っていない。
闇の瘴気を浄化する効力を持っているだけだ。
ホーリーシャインやパニッシュよりも、効力は上である。
「こ、これでもまだ浄化し切れないのか……」
どうやら俺とアイリスの聖魔法は完全無敵のようですね。
……とはいかなかったということか。
技の問題ではない。
まだまだ、俺とアイリスの練度が足りないのだ。
「ううん。もうずいぶんと弱っているよ。最後のひと押しが必要だね」
アイリスの言う通り、あと少しで浄化し切れそうだ。
もう一度パニッシュやソード・オブ・ジャッジメントを発動させるか?
しかし、俺たちのMPにはさほど余裕がない。
アイリスはもともとMP関係のスキルを伸ばしていないし、俺は先ほどのソーマとの決闘でそれなりに消費してきたからだ。
ここはーー。
「今こそボクの第五の型を見せるときだね」
アイリスがそう言って、佇まいを正す。
「……はあああぁ! 聖闘気、”光輝”の型」
彼女が聖闘気を開放させる。
迅雷の型、豪の型、流水の型、守護の型。
それに加わる、第五の型である。
聖闘気を聖魔法と融合させることで、武闘と浄化を両立させた攻撃が可能となる。
さらにーー。
「俺もいくぞ。……ぬうううぅ! 聖闘気、”光輝”の型」
俺も同じく聖闘気を開放する。
聖闘気術は闘気術と同じく、ステータス操作で強化することはできても取得することはできない。
もっとも難しい最初の発現は、自身の力で達成する必要がある。
俺は1年以上前から、アイリスの指導のもとコツコツと鍛錬を続けてきた。
そのかいあって、つい先日にとうとう聖闘気術レベル1を習得したのだ。
俺は、聖魔法をレベル4にまで伸ばしている。
そのおかげもあってか、俺が発現に成功した最初の型は、”光輝”の型であった。
「「聖ミリアリア流奥義……」」
俺とアイリスが、ソーマのもとに駆け寄る。
「「光・爆撃正拳!!!」」
聖闘気を纏った攻撃だ。
俺が右の拳、アイリスが左の拳で、ソーマの顔面狙いのパンチを繰り出す。
物理ダメージと浄化の両方に期待できる。
これで、ソーマも間違いなく沈静化できるだろう。
ーータカシとアイリスの拳がシュタイン=ソーマの顔面に近づいていく。
彼はそれを認識しつつも、動かない。
聖なる鎖により拘束されているという事情もあるが、それ以上にそもそもシュタインに回避するという意図がない。
度重なる聖魔法により、彼は正気を取り戻しつつあった。
シュタインの脳裏には、かつての楽しい日々が走馬灯のように流れていた。
『きゃー! ソーマちゃん、カッコいい!』
『へえ、よかったじゃない。ソーマっち。……いや、ソーマ様とでも呼んだほうがいいかな?』
『え、えっと……。シュタイン……くん。これからもよろしくね。えへへ。なんだか、照れくさいなぁ』
最愛のミサとの色褪せない思い出だ。
そして、それらと対比されるかのように、近頃のミサの無表情な顔も思い出されていた。
さらに、抵抗する町娘や嫌がる貴族たちへの度重なる求婚。
己の過ちを振り返り、彼は悔恨の思いを抱き始めていた。
タカシとアイリスの拳が彼の頬にめり込む。
何やってんだ、俺……。
シュタインはタカシとアイリスの拳を受け止め、意識を失った。
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