翌朝になった。
俺はベッドで目覚める。
「ふぁああ……」
まだ少し眠いな。
ベッドで目をつむったまま、俺は昨日のことを思い出す。
「昨晩はなかなか楽しかったな……」
盗賊を撃破した俺を歓迎して、村で宴会が開催されたのだ。
まぁ山村の宴で出される料理はさほど上等なものではないのだが。
こういうのは気持ちが大切なのだ。
そしてその気持ちへのお返しとして、俺のアイテムルームに保管していた食材を提供した。
極端に高級な食材というほどではないが、もちろん悪いものでもない。
それらが村の料理自慢、そしてモニカやゼラによって調理され、宴会に出された。
また、合わせて酒も供出している。
俺もたくさん飲んだ。
ハイブリッジ男爵家や村人たちも、しっかりと楽しんでくれたようであった。
「うーん……」
若干だが二日酔い気味か?
軽く二度寝をしよう。
そう思ったのだが、何だか寝苦しい。
俺は目を開けた。
すると、そこには――
「あっ! おはようございます、貴方様!」
「……」
俺は無言で布団を被った。
いやいやいや、おかしいだろ。
どうして俺の腹の上にラフィーナがいるんだよ。
「えっと……なぜここに?」
俺は恐る恐る尋ねる。
「はい! 貴方様が私を娶ってくださると仰っていただいたので!」
「えっ? そんなこと言ったっけ?」
「言いました! 覚えていらっしゃらないのですか?」
「……」
確かに言った気がする。
酔っぱらっていて、記憶が定かではないが。
「私は嬉しくて、こうして朝一番に貴方様のお部屋へと参ったのです!」
「そ、そうなんだね」
「はい!」
「ちなみに、ラフィーナちゃんはいくつだっけ……?」
俺は尋ねる。
「6歳です!」
元気よく答えるラフィーナ。
うん、アウトだな。
考えるまでもなくアウトだ。
露骨なアウトである。
現代日本の基準で、18歳。
少し前の日本の基準で、16歳。
100年以上前の日本の基準で、15歳。
1000年以上前――平安時代の日本の基準で、13歳。
文化や教育が成熟するにつれて、結婚が可能な年齢は上がる傾向にある。
他の国々でもある程度は似たようなものだ。
この世界、この国ではどうか?
明確な法律はないのだが、15歳以降の結婚が一般的で、12~14歳なら早めという感じである。
現代日本よりも早婚の傾向があるのだが、さすがに6歳は……。
「ええっと……」
どうしよう?
男爵家当主の俺が、村人の幼女と結婚?
ミティ、モニカ、ニム、ユナあたりも村人だし、別に身分はどうでもいいのだが。
いや、どうでもよくはないのか?
この4人は、俺が貴族になる前からの付き合いである。
一方で、ラフィーナは俺が貴族になった後に知り合った。
その点、扱いを変える必要もある。
いやいや、そもそもそれ以上の問題がある。
年齢が……。
「えーっとだな……」
「どうされましたか?」
ニコニコしながら尋ねてくるラフィーナ。
ダメだ。
この笑顔を壊すことはできん。
「何年かしたら迎えに来るから……。それまでいい子にしていてくれるか?」
「はい! お任せください!」
俺のその場しのぎの言葉を受け、ラフィーナは元気にそう返事をしたのだった。
*****
「なに? 馬車の調子が悪いだと?」
俺の言葉に、ヴィルナやネスターがうなずく。
村から出発しようとした出鼻をくじかれた格好だ。
「馬が疲弊しているのか? それなら、俺やサリエの治療魔法で多少は回復できるが……」
「いえ、これは車輪の問題です。明確に破損しているのが1台、よく見ると壊れかけのものが2台です」
「ふむ……」
まぁ、ラーグの街から王都に行って、また王都からラーグの街に帰るわけだしなぁ。
相当な距離を走ってきたことになる。
そりゃ、車輪の1つや2つも壊れてしまうか。
「も、申し訳ありません。王都でのメンテナンスが不十分でした」
「俺も確認不足だった」
ヴィルナとネスターが頭を下げる。
後ろではシェリーとオリビアも頭を下げている。
うーん……。
微妙なところだよなぁ。
ヴィルナ、ネスター、シェリーは護衛兵として雇っている。
オリビアはメイド。
馬車の管理は管轄外と言ってもいい。
実際、筆頭護衛兵のキリヤは我関せずといった感じで佇んでいる。
また、レインやクルミナも馬車に関してはノータッチのようだ。
ヴィルナ、ネスター、シェリー、オリビアあたりは、それなりに何でもできるタイプだ。
しかしだからこそ、こうして本来は管轄外のことにまで責任を感じているのだろう。
最初から戦闘以外に首を突っ込む気がないキリヤや、純粋にメイドとして働いているクルミナあたりとはそこが違う。
「別にいいさ。それで、対処法は何か考えているのか?」
俺はそう問う。
今回の馬車の管理不届きは誰の責任になるのだろう?
ヴィルナやネスターが謝っているので彼女たちの責任にもしたくなるが、実際はあやふやだ。
しかし少なくとも、最終的な責任が当主である俺にあることは確かである。
ちゃんと責任者を決めないからこういうことになるんだ。
今後、新たに馬車の管理を専門とする役職を……。
いや、さすがにそれは人件費の無駄遣いか?
どちらかと言えば、ヴィルナやネスターあたりを正式に責任者に任命した方がいいか。
もちろん、その分の給料を多少上乗せするようなイメージである。
本来は警備兵として雇っているのに、専門外のことをさせているわけだからな。
「1日もらえれば、何とか修理できると思います。ですよね? ネスターさん」
「ああ。村にも、加工技術者がいるらしい。馬車の車輪を製作したことはないようだが、助言くらいはしてもらえるだろう。ミティ殿も協力してくれると言っていた」
ヴィルナとネスターが言う。
専門外だが、割りと何でもできるヴィルナやネスター。
村の加工技術者。
一流の鍛冶師であるミティ。
このあたりが協力すれば、何とかなりそうだ。
(ジェイネフェリアあたりを連れてこれば、あっさりと修理してくれるか……?)
いや、微妙だな。
転移魔法陣を描くのも地味に大変だし、MP消費量もそれなりにあるし……。
そもそも、彼であっても確実に修理できるとは言えない。
俺は自分の案を却下する。
「わかった。なら、出発は24時間後の今ぐらいになるイメージで待つことにする。頼りにしているぞ」
俺は彼女たちにそう声を掛ける。
さぁて、明日まで暇だな。
何をしようか?
愛する妻たちとゆっくりするのもいいが、それはラーグの街に帰ってからでもできる。
ここは――
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