海辺の温泉に浸かっているところだ。
湯船から見える大海がすばらしい。
「ふんふふーん」
俺は上機嫌に鼻歌を歌う。
しかし、そんなのどかな雰囲気が喧騒により壊される。
「なあ、あれってひょっとして……」
「ああ、間違いねえ。あそこだ」
トミーたちがそう言う。
俺は彼らに話しかける。
「何があそこなんだ?」
「タカシの旦那。あそこに、女風呂があるようですぜ。ぐへへ」
トミーが少し離れたところにある海辺を指差す。
ちょっとした高台の上に、岩垣や木の柵に囲まれたところがある。
中はもちろん見えないが、確かにあそこが女風呂の可能性はある。
「女風呂だと? まさか覗くつもりか?」
「もちろんですぜ! ひゃっはー! いくぜ、野郎ども!!!」
「「「うおおおぉ!!!」」」
トミーたちがそう言って、全裸のまま走り出していった。
覗きはマズいだろ。
この世界の法体制のすべてを把握しているわけではないが、間違いなく違法のはず。
しかも、今入浴している女性は高ランク冒険者ばかりだ。
見つかったら法の裁きを待つまでもなく、本人たちによる物理的な裁きがある。
タダでは済まない。
いや、こんなことを考えている場合ではない。
あそこにはミティやアイリス、モニカやニムたちもいる。
彼女たちの全裸を見ていいのは俺だけだ!
「ガハハ! 我もいくぞ!」
「おうよ! 漢なら、前進あるのみだぜ!」
ギルバートとジルガがトミーたちの後に続く。
彼らもそういうタイプだったか。
この世界の倫理観はどうなっているんだ。
まったくけしからん。
「ジョージさん! いっしょに彼らを止めましょう! あそこには、セニアさんもいるのでしょう?」
俺はそう言う。
一刻も早くトミーやギルバートを止める必要があるが、俺1人ではさすがに多勢に無勢だ。
止めるための仲間を募る必要がある。
「む? いや、彼女は気にしないだろう。私はここでゆっくりしているよ」
マジかよ。
自分の妻が覗かれようとしているのに。
熟年夫婦の余裕というやつか?
俺はまだそこまで大人になれない。
「タカシ君。俺が手伝うよ」
「へっ。俺も行くぜ」
マクセルとストラスがそう言う。
「ありがとう。カトレアさんとセリナさんの貞操を守るためだな? 心して行くぞ!」
「俺はカトレアさんとそういう仲ではないけどね。ストラスとセリナさんはともかく」
「俺とあいつもそういう関係ではねえよ!」
ええい。
まどろっこしい。
まだ認めてないのか。
早くくっつけや。
「ふっ。私も、愛する妻たちを守るために戦うぞ」
シュタインがそう言う。
彼の妻であるミサたちも入浴中のはずだ。
しかし、貴族である俺やシュタインの妻が入っている風呂を覗こうとは、トミーたちは相当な命知らずである。
それに、ベアトリクス第三王女、伯爵家長女のリーゼロッテ、男爵家次女のサリエ、ハガ王国王女のマリアもいる。
時代が時代なら、死刑もあり得るぐらいではなかろうか。
この国の法体制は穏健だが、それなりの重罪に処されてもおかしくないぞ。
仕方ない。
ミティたちのためだけではなくて、トミーたち自身のためにも彼らの愚行を止めてやろう。
「よし! 行くぞ!」
俺、マクセル、ストラス、シュタイン。
4人で、全裸のまま女湯に向けて駆け出す。
俺たちが男湯の脱衣所を出た瞬間に、リールバッハやリカルロイゼたちと鉢合わせした。
「む!? ど、どうしたというのだ。そんな格好で」
リールバッハがそう問う。
今の俺たち4人は、全裸だ。
そのまま脱衣所から外へ出ようとしていたのだから、驚いて当然である。
「リールバッハさん! 女湯への道を教えてください!」
「なっ、なんだその質問は!?」
彼が驚きに目を見開く。
少し直球すぎる質問だったかもしれない。
「い、いや待てよ。そう言えば、先ほどむさ苦しい男たちが駆けていくのが見えた」
彼が気を取り直して、そう言う。
「その通りですね。もしかすると……彼らは女湯に向かったのでしょうか?」
「へっ。なるほどな。つまり、お前たちはそれを止めようとしているわけか」
リカルロイゼとリルクヴィストがそう言う。
なかなか理解が早い。
「ええ、その通りです! 俺の愛する妻や仲間たちのピンチなのです! ぜひ、近道を教えてください!」
「わかった。……女湯はあの高台にある。しかし、直線距離で行こうとすると堀や柵が設けられている。この脇道をまっすぐ行って、大岩を左に曲がるのが正解の道だ」
「なるほど」
急がば回れというわけだ。
「あそこには、我が妻マルセラの他、リーゼロッテとシャルレーヌも向かっておる。既に入浴している頃かもしれん。何としても、不埒なやつらを止めてくれ!」
「任せてください! 行くぞ、みんな!」
「「「おうよ!!!」」」
マクセル、ストラス、シュタイン。
みんなやる気満々だ。
「聖闘気、”迅雷の型”」
「動くこと雷霆(らいてい)の如し」
「鳴神(なるかみ)」
「風の型……天つ風!」
俺たちはそれぞれ、移動速度がアップする系統の技を発動させる。
覗きなどという卑劣な犯罪は、断固として見逃すわけにはいかない。
トミーやギルバートたちには、お灸をすえてやる必要がある。
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