リオンが研究の副産物を披露してきた。
人魚の血を利用し、治療魔法『リジェネレーション』に類似した自己治癒力を獲得。
さらには一時的に若返り、Bランク冒険者であった全盛期の力を取り戻す。
仕上げに、オルフェスで得た魔道具を全身に装備。
それにより、彼は全盛期以上の強さを手に入れたようだ。
「驚くのも無理はない。今の私は、この国で最強。誰にも倒せやしない」
リオンは自信満々だ。
確かに、今の彼は強い。
幹部ヨゼフよりも強いのはもちろん、Cランクパーティ『三日月の舞』でも荷が重い相手だろう。
だが――
「くだらん」
俺は冷たく言い放つ。
リオンは眉間にしわを寄せた。
「なんだと……?」
「くだらないと言ったんだ。その程度の力を得るために、お前はどれだけの時間を費やした?」
「……」
リオンは答えない。
ただ黙って俺を睨んでいる。
「この国で最強だと? お前よりも強い奴など、掃いて捨てるほどいる」
「……例えば?」
「ふん。ネルエラ王はどうだ? お前ごときよりも確実に強い」
サザリアナ王国の国王である、ネルエラ陛下。
彼は内政能力や外交能力などにも優れているのだろうが、特筆すべきはその戦闘能力だ。
第三王女ベアトリクス絡みで俺がネルエラ陛下と決闘した時、俺は彼に勝利した。
しかしあれは、彼にとって遊び半分のものだった。
もし彼が本気を出していたなら、俺は確実に負けていたはずだ。
俺が本気で戦っても勝てるかどうか分からない存在。
それがこの国の王様である。
「くっ……! しかしネルエラ王は誓約により、安易にこの地までやって来れまい! 奴の配下『誓約の五騎士』も似たようなもの! 実質的には、私が最強のはずだ!!」
「本当にそうか? 他にもいるんじゃないか?」
「強いて言えばハイブリッジ男爵だが……! 奴はここ最近、領都ラーグから動いていないはず! 今この街にいる中で、私が最強なのは間違いない!!」
ずいぶんとスケールダウンしたな。
サザリアナ王国内で最強から、オルフェス内で最強か。
まぁ、普通に考えればそれでも十分に強い方なのだが……。
「……ふむ」
「さぁ! おしゃべりはこの辺にして、戦いを始めようか!! 貴様にさしたる恨みはないが、死んでもらうぞ!!」
リオンが叫び、戦闘態勢に入る。
俺も身構えた。
「――【影矢】」
「遅い!!」
リオンが俺の影魔法を回避し、懐に飛び込んで来る。
「魔道具『炎熱剣』!」
「むっ!!」
リオンは腰から一振りの剣を抜き、俺に向かって振るう。
俺はそれを素手で受け止めた。
リオンの顔が驚愕に染まる。
「なっ!?」
「おいおい。こんなオモチャで俺に傷をつけるつもりだったのか?」
俺はリオンの剣を押し返す。
彼は慌てて飛び退いた。
「馬鹿な……!! 『炎熱剣』は、火属性の魔法を刀身に付与できる魔道具だ! 触れたら大火傷は必至! なぜ無事で済む!!」
「簡単な話だ」
俺はリオンに近づいていく。
「くっ! 唸れ我が魔道具よ! 【風刃】! 【水弾】! 【土槍】! 【雷球】! 」
リオンは次々と攻撃を放ってきた。
だが、いずれも初級魔法と同程度の威力しかない。
俺は軽く手を払い、すべての攻撃をかき消す。
「なにぃ!? バカな!!」
「多彩な魔法を放つことができるのは素晴らしい。魔道具を揃えたお前ならではの芸当なのだろう。しかし、相手が悪かったな。俺の魔力の前では、初級レベルの魔法など無に等しい」
攻撃魔法を使用するには、その属性に対する適性が必要となる。
しかし一方で、防ぐだけならば魔力だけでも可能だ。
まぁ、魔力の波長を属性に合わせて変質させた方が防御効率は良くなるので、魔力量だけで全てを凌ぐのは結構大変なのだが……。
「ば、化け物め……!」
「その言葉、そっくりそのまま返そう。人魚の血で若返るなど、お前こそ化け物じみている。魔道具も悪くはない。ただ、この俺『ナイトメア・ナイト』には通じなかった。それだけの話だ」
俺の言葉にリオンは歯噛みする。
どうやら、今の『アーティファクト・チャンピオン』形態の強さに相当な自信があったようだな。
「さぁ、終わりだ」
「クソがぁ!!」
リオンが拳を振りかぶってくる。
俺は彼の腕を掴み取り、捻り上げた。
ボキィッ!
「ぎゃあああっ!?」
リオンの腕が折れた音が響く。
俺は彼を放り投げた。
彼はそのまま地面に叩きつけられる。
「がはっ!」
リオンは起き上がろうとしているものの、ダメージが大きいらしく上手く立てないようだった。
俺はゆっくりと彼に近づき、彼の前に立つ。
「さて、どうする? まだ続けるか?」
「な、舐めるなっ! 人魚の血の効力により、この程度のダメージはすぐに回復する……。まだだ、まだ終わらんよ!!」
リオンは血走った目で叫ぶ。
その目からは闘志が消えていない。
こいつの戦意を挫くのは骨が折れそうだと、俺は嘆息するのだった。
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