俺は治療岩の責任者リリアンと話していた。
そんな俺たちの元に駆け込んできたのは、人魚族の戦士だ。
彼は慌てた様子で叫んでいる。
「繰り返します! 魔物の襲撃により、重傷者多数! 至急、治療をお願いいたします!!」
「は、はい。分かりました……!」
リリアンはうなずくと、近くの人魚族の女性たちに指示していく。
責任者として、この場を取り仕切るようだ。
「なぁ、リリアン。俺は……」
「邪魔しないで! あっちに行っててください!!」
リリアンに拒絶されるが、ここで引き下がるわけにはいかない。
俺は反論する。
「邪魔なんてしないさ。負傷者の受け入れに協力したいんだ」
「人族が人魚族のために尽力するなど、信じられません……!」
リリアンは困惑している様子だ。
だが、俺が食い下がるとため息をついて答えた。
「……問答している時間さえ惜しいですね。この場にいることは許可します。ただし、私たちの邪魔だけはしないように!」
「分かった。任せてくれ」
俺はリリアンに許可を取ると、負傷した戦士が運ばれてきたときに対処できるよう準備を整える。
しばらく待っていると、重傷者たちが運ばれてきた。
(これは……ひどいな)
俺は彼らを見て顔をしかめる。
今回の襲撃は相当手ひどくやられたのだろう。
多くの戦士たちが深手を負っている。
中には、命の危険さえ感じられる者もいた。
(だが、魔法なら何とかなる……!)
俺は集中する。
そして、さっそく治療魔法を行使しようとするが――
「邪魔ですよ!」
ドンッ!
俺は横から何者かに突き飛ばされる。
突然の衝撃に対応できず、その場から退かされてしまった。
(な、なんだ!?)
俺が振り返ると、そこにはリリアンがいた。
彼女は俺の方には目もくれず、重傷者たちに駆け寄っている。
「大丈夫ですか! 今、治療します!!」
「あぁ……リリアン殿。ありがとうございます……」
人魚族の戦士が安心した様子を見せる。
その反応を見て、俺は状況を察した。
(そうか……。リリアンは責任者だし、治療の腕前も確かなはずだ。戦士たちとも知らない仲ではないようだし……。ここは、彼女に任せるしかないな)
俺は歯がみながらも、この場はリリアンに譲ることにした。
適切な治療を受けられるのであれば、わざわざ俺がしゃしゃり出る必要はない。
「――【ヒール】!」
リリアンは俺を突き飛ばしたことなど意に介した様子もなく、重傷者たちに次々と治療魔法を行使していた。
彼女の腕前は悪くない。
次々に怪我を治していく。
他の職員たちも、テキパキと動いていた。
(うーん……。しかし……)
俺は内心でうなってしまう。
最初に運び込まれた重傷者の初期治療は、ほぼ終わったと言ってもいいだろう。
一刻を争う事態は回避したと言っていい。
だが、まだまだ完治には程遠い。
このまま放っておけば、数十分後にはまた容態が悪化してしまう。
しかも、それだけではない。
「ううっ! い、痛ぇ……!」
「ぐうぅ……」
重傷者たちは次々と運び込まれていた。
彼らの苦悶の声を聞くだけで心が痛む。
「はぁ、はぁ……! これほど重傷者が多いなんて……! だ、大丈夫ですか……!」
リリアンは必死に治療を続ける。
他の職員たちも懸命だ。
しかし、手が足りていないのは明らかだった。
(……ここは俺の出番のようだな。リリアンには疎まれるだろうが、そんなことを言っている場合ではない)
俺は覚悟を決めると、リリアンに声をかけるべく前に出るのだった。
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