【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1693話 闇討ち

公開日時: 2025年3月21日(金) 12:10
文字数:1,042

 夜の帳が下りた城下町の裏路地――湿った石畳に、紅の血が散る。


 冷え冷えとした夜気が肌を刺し、遠くで梟が鳴いた。

 夜の闇は深く、路地裏の隅々まで沈黙が支配する。

 ぼんやりとした月光が薄雲を透かして落ち、仄かな光が濡れた石畳を鈍く照らしていた。

 その中に、一筋の鮮血が黒く滲むように広がっていく。


「うっ……。いったい……どうして……」


 紅乃は膝をつき、震える左手で負傷した右肩を押さえた。

 温もりを失い始めた血が指の隙間から溢れ、着物の袖を重く濡らしていく。

 痛みが骨の奥まで突き刺さり、息をするたびに喉が震えた。

 それでも彼女の瞳は、目の前の侍を捉え続けていた。


 侍は静かに立っていた。

 鋭利な刃をわずかに傾け、淡々と紅乃を見下ろしている。

 彼の表情には冷徹な静けさが宿り、月光が刀身に鈍く反射して、死の予感を鋭く際立たせた。


「……不用意に目立つからだ。そして、行動も迂闊すぎる。夜道を一人で歩くとは……」


 低く響く声には、呆れと諦めが滲んでいた。


「くっ……」


 紅乃は悔しげに唇を噛む。


「警戒して大人数で動いてくれていれば、拙者としても不実行の言い訳ができたものを……。悪く思うな」


 侍はため息混じりにそう言いながら、手元の刃をわずかに持ち直した。

 終わりを告げるように、静かに、確実に。

 そのとき――


「そこまでですわ」


 凛とした声が、夜の帳を裂いた。

 次の瞬間、きらめく水の刃が宙を奔る。

 それはまるで、月の光を映した鏡のように、鮮やかに、鋭く。


 侍は反射的に一歩下がり、その軌道を見極めながら躱した。

 直後、乾いた音とともに壁の一部が白く凍りつく。

 夜の冷気がいっそう際立ち、張り詰めた空気が場を支配した。


「ふむ? 貴様は……璃世とかいう余所者か。水妖術の使い手だったとは、驚きだ」


 侍の視線が、新たな乱入者を捉える。


「紅乃さんへの狼藉、許しませんわよ」


 リーゼロッテ――異国の血を引くその女性は、闇を背負うようにして立っていた。

 蒼い瞳が鋭く光り、細く引き結ばれた唇には揺るぎない決意が滲んでいる。

 指先には、再び水の魔力が収束し始めていた。

 侍は小さく鼻を鳴らし、肩をすくめる。


「一足遅かったな。もうそやつの右腕は再起不能だ。深々と斬ったからな」


「なんですって……!?」


 リーゼロッテの瞳が険しく細められる。


「もう二度とうどんは打てぬだろう。貴様も同じ末路をたどりたくなければ、早めにこの藩を出るがいい。……では、さらばだ」


 侍は踵を返し、闇へと消えた。

 リーゼロッテはその背中を見送る。

 氷のように冷たい眼差しのまま、静かに唇を引き結んで。

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