俺は少女騎士たちと模擬試合をしている。
ルシエラを始めとした4人が近接戦を挑んできたが、木剣を没収してやった。
次は、少し離れたところから放たれた攻撃魔法に対処する必要がある。
「剣を使わないで、それにどう対処されますか!?」
「魔法も使用禁止です! ハイブリッジ男爵から提案されたことですよ!」
「お覚悟!!」
攻撃魔法の後を追うように、他の少女たちも迫ってくる。
魔法への対処に手間取れば、彼女たちの追撃を受けてしまうだろう。
ここは――
「はあぁっ!」
俺は力を込めてジャンプした。
小さく回避したり防御したりするのがマズいのであれば、大きく避ければいいのだ。
「なっ!? 身体能力と闘気だけでそれほどの跳躍を!?」
「くっ……。ですが、まだまだ終わりませんよ!」
俺の着地先を予測し、少女騎士たちが陣形を立て直す。
とっさの判断にしては悪くない。
(重力魔法のレビテーションを併用すれば、もっと空高くの跳躍も可能だけどな。今回は魔法禁止のルールにしているから、仕方ない)
レビテーションは狭い範囲にある物にかかる重力を軽減する魔法だ。
ジャンプする瞬間に自分へかければ、当然跳躍距離が増すことになる。
今回はそれを使用せず、身体能力と闘気のみによるジャンプだった。
大した飛距離ではないので、少女騎士たちもとっさに対応できるというわけだ。
「一太刀入れさせてもらいますよ!」
「覚悟してくださいっ!」
俺の落下地点を予測した少女たちが剣を構える。
このままだと、一撃を入れられてしまうだろう。
だが――
「甘いッ!! 【青空歩行-スカイウォーク-】!!!」
俺は落下途中に、両足を使って虚空を蹴った。
それにより俺の体は空中で二段目のジャンプを果たす。
「「ええぇっ!?」」
少女たちは目を丸くしていた。
「そ、そんなバカな……」
「うそでしょ!?」
俺は少女騎士たちの頭上を飛び越える。
そして、そのまま地面に降り立った。
「スキあり!」
バシッ!
バシバシッ!!
俺は木の枝で少女騎士たちの手首を叩いた。
「「「キャアアッ!!」」」
痛みに悲鳴を上げる少女たち。
「はい、終了。勝負あったね」
「ま、参りました」
「まさか、こんな方法でかわされるなんて……」
「信じられません……」
少女騎士たちは悔しそうにしていたが、素直に負けを認めてくれた。
俺は木の枝を下ろし、ひと呼吸おく。
「ふぅ……。なかなか悪くない動きだったぞ」
「す、すごい……。これが本物の騎士の戦いなんですね」
「私、感動しました!」
「ハイブリッジ様、カッコいい!」
少女騎士たちが口々に感想を述べてくれる。
最初に撃破したルシエラを含む4人、今襲いかかってきた3人。
これで7人が戦闘不能と言っていいだろう。
後は攻撃魔法を放ってきた3人組だが――
「ほいっと」
「あっ!」
「ひぅ……」
「わぁっ!?」
俺は闘気を開放して、3人組の背後に回る。
そして、肩に手をポンっと置いた。
「君たち、降参してくれるよな?」
「はいぃ……」
「降参しますぅ」
「ごめんなさい~」
3人ともヘナヘナと座り込んでしまった。
「よしよし、それでよろしい」
素直に降参してくれた3人の頭をなでてあげる。
「「「ひゃああぁっ!!」」」
「ん? どうしたんだ、みんな」
「あ、あの……そのぉ……」
「ハイブリッジ様に頭を撫でられると……ドキドキしてしまうんです……」
「は、恥ずかしくて死んじゃいますぅ……」
「おー、それは悪いことをしてしまったな」
俺は3人の頭から手を離したが、彼女たちは顔を赤くして動けない様子だ。
これでほぼ全員を倒したか。
残っているのは――
「ナオミちゃんか。どうして他のみんなと力を合わせて挑んでこなかったんだ?」
「ハイブリッジ様に、1対1で今のアタシの全力を見てもらいたかったんです」
そう言って、ナオミが木剣を構えた。
「いきますっ! はああぁっ!!」
裂帛の気合いとともに突進してくる。
スピードもパワーも申し分ない。
一般人や下級冒険者なら瞬殺されていただろう。
(だが、俺にとっては問題にならない)
俺は無造作に木の枝を突き出した。
ドゴォッ!!
強烈な打撃音と衝撃波が発生する。
闘気をまとった俺の突きが、ナオミの木剣を吹き飛ばしてしまったのだ。
「う、ウソっ!?」
驚愕するナオミ。
闘気のコントロールが甘かったのか、それとも無意識のうちに俺へ手加減したのだろうか。
「そんなものか? ナオミちゃんの全力は」
「なっ……。まだです! 次こそは本気で行きます!」
再び構えを取るナオミ。
木剣を失い、今度は武闘で戦う構えだ。
闘気の密度が上がり、体から立ち昇るオーラはまるで炎のように揺らめいている。
「【飛燕の型】!!」
叫び声と同時に、ナオミの姿がかき消えた。
(ほう……これは見事な)
目にも止まらぬ高速移動だ。
普通の人間では反応できないほどの速さである。
「とりゃりゃりゃりゃっ!!!」
連続攻撃を繰り出してくるナオミ。
だが、俺には彼女の動きが全て見えていた。
「むっ!? くっ!」
一瞬の隙を突いて放たれた蹴りを、俺は腕で受け止める。
「くぅっ……。まだまだっ!!」
すかさず繰り出される拳。
だが、それも俺の掌で受け止められてしまう。
「はあぁっ!!」
最後の一撃は回し蹴りだった。
だが、それも俺は余裕を持って回避する。
「うそっ!?」
驚くナオミ。
俺はそんな彼女へ問いかける。
「どうした? この程度なのか?」
まぁ、騎士見習いとしては十分すぎるくらいか。
チートの恩恵も、まだ加護(微)しか得ていないしな。
少女騎士の中では、ナオミは最も健闘した。
ここらで終わりにしてあげて、彼女に採用を伝えてあげることにしよう。
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