俺は龍神ベテルギウスと戦いを続けている。
炎精サラの力を借り『炎精纏装・サラマンダー』を発動した俺は、火魔法のスペシャリストとなった。
だが、ベテルギウスは闘気の質を火系統に変えることで対抗してきた。
これでは、攻撃面でも防御面でも、俺の優位性が大きく損なわれてしまう。
(――ならば、別の方法で攻めるまでだ)
俺は魔力と闘気の練り上げを開始する。
「ほう……。まだ何か奥の手があるようだな」
ベテルギウスが興味深そうな視線を向ける。
「当然だ」
「見せてもらおう。この龍神ベテルギウスの暇つぶしとなることを光栄に思え!」
ベテルギウスが叫ぶ。
それと同時に、彼から凄まじいまでの殺気が溢れ出した。
さすがは英霊。
その殺気だけで、攻撃を躊躇いそうになる。
だが――
「――【火風旋刃】!!」
俺は詠唱しながら、左手を前に突き出す。
直後、ベテルギウスの周囲360度から無数の風の渦が巻き起こった。
「風魔法? いや、これは……ッ!!」
ベテルギウスが目を見開く。
そして、彼は即座に闘気を纏うも――
「ちっ! 火と風の複合技だと!? 火闘気だけでは、防ぎきれん……ッ!」
質の異なる闘気だけでは、今の俺の攻撃魔法を防ぐことはできない。
風の回転によって生み出された真空の刃が、容赦なく彼の身体を切り刻んでいく。
「ぐぅっ!!」
傷口から鮮血が飛び散る。
今さらだが、あれってリオンの肉体なんだよな。
やり過ぎると本来の持ち主であるリオンに悪いし、早めに決着をつけないと。
「――【雷炎連撃】!!」
俺は右手を突き出し、詠唱する。
直後、俺の右手から放たれた稲妻と炎が、凄まじい勢いでベテルギウスを襲った。
「き、貴様ぁ! いったい、いくつの魔法を操れるというのだ!? 当たり前のように複合魔法を使いおって!!」
ベテルギウスが叫ぶ。
彼は強引に身体を動かすと、俺の方へ突進してきた。
「【龍撃・真打】!!」
ベテルギウスが全身に闘気を纏い、俺へと突っ込んでくる。
俺はそれを迎え撃つべく、次の魔法を発動する。
「――【氷炎爆華散】!!」
俺の左右の手から放たれたのは、絶対零度の冷気と灼熱の業火。
相反する二つの力が合わさることで、爆発的な力を生み出す。
というか、単純に爆発する。
「ぬぉおおおっ!?」
ベテルギウスが悲鳴をあげた。
俺はすかさず追撃する。
「――【土葬の火焔】!!」
今度はマグマ状の炎をぶちまけた。
「ごほっ!! げふっ!!!」
ベテルギウスが吐血する。
もう、勝負あったな。
まぁ、マグマ級の威力の攻撃を受けて吐血ぐらいで済んでいるのは流石としか言えないが……。
「……くっくっく……。やるではないか。まさか我がここまで追い詰められるとはな……」
数々の魔法を耐え抜いたベテルギウスが呟く。
そして、ニヤリと笑った。
「貴様の実力は認めよう。我は満足しつつある」
「それは良かった。なら、大人しく異世界に帰るんだな」
「断る」
「……何?」
「言っただろう? 我は久しぶりに運動がしたいのだ。そして、まだ完全には満足していない。このまま帰ったのでは、不完全燃焼になってしまう」
ベテルギウスが言う。
不完全燃焼も何も、俺の火魔法で結構燃えていたと思うが……。
いや、そういう話ではないのか?
「我はまだ戦いたい。だから、貴様に付き合ってもらうぞ」
「……断る、と言ったら?」
「無理やりにでも戦ってもらう。お前を戦わせる方法などいくらでもあるからな」
「そうか。では、仕方がないな」
俺はため息をつく。
すると、ベテルギウスが嬉しそうに叫んだ。
「では行くぞ!! 龍神ベテルギウスの真骨頂を見せてやろう!! はあああぁぁっ!!」
ベテルギウスの闘気がさらに膨れ上がっていく。
そして、その闘気が質が変わっていった。
火?
風?
雷?
水?
土?
いや違う。
これは――
「……龍属性か……」
「然り。これこそ、我が奥義『龍闘気』――通称『ドラグネス・オーラ』だ!!」
ベテルギウスが得意げに笑う。
その表情からは、確かな自信が感じられた。
「なるほど。その闘気があれば、俺の魔法攻撃も通らないと?」
「いかにも。龍は全ての属性に対する耐性を持っている。『竜闘気』でもその効力は十分だが、『龍闘気』は別格だ!!」
ベテルギウスが語る。
この世界における、龍と竜の違いは何だったか……。
確か、より上位の存在で神や精霊に近い存在が龍で、逆に魔物や爬虫類生物に近い存在が竜だったはずだ。
まぁ、普通の冒険者からすれば竜でも十分に厄介なのだが……。
世界によって、龍と竜の区別方法は異なるはず。
しかし、この様子ではベテルギウスの世界でも似たような感じだったらしい。
「始めて見る戦闘技法だ。素晴らしいな」
「当然だ。『ドラグネス・オーラ』の習得に至った者は、生前の我ですら数人しか知らぬ。技を見たことがある者ですら、100人もいないだろう。誇るがいい。貴様はその一人になったのだからな」
「光栄だな」
「――さて、そろそろ終わりにしようか。貴様との遊びは楽しかったが、そろそろ召喚時の魔力が尽きる。次で最後の一撃にしよう」
ベテルギウスが構える。
その体からは、先ほどまでとは比べものにならないほどの闘気が溢れ出していたのだった。
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