俺はオルフェスからラーグへと転移した。

「ふむ……。無事に転移は成功したようだな。クールタイムもさほど掛からないみたいだ」

　特に違和感も感じない。

　この分なら、予定通り数時間以内にオルフェスへ戻れそうだ。

　その前に、まずはみんなの様子でも見てこようか……と歩き出そうとした瞬間、俺は後ろから声を掛けられた。

「タカシ様？」

「あれ？　タカシじゃん！」

「むっ！？」

　俺は後ろを振り向く。

　すると、そこにはミティとアイリスがいた。

「おお、ミティか！　それにアイリスも」

　俺は驚く。

　どうして２人がここにいるんだ？

　ここは屋敷の一室。

　転移魔法陣が描いてある部屋であり、普段は出入りを禁止している。

　下手に掃除でもして魔法陣が消えたら、転移できなくなってしまうからな。

「まさかとは思うが、ずっとこの部屋で待っていてくれたのか？」

　俺、モニカ、ニムの３人がオルフェスへ先行入りする。

　その後、街の状況や隠密小型船の完成具合に応じて、いい感じのタイミングで転移魔法陣を使って迎えに来る。

　そういう予定であることは、もちろん伝えてあった。

　だが、不確定要素も多く、具体的な日時までは指定していなかった。

　それなのに、俺がここに戻ってきた直後に２人と会えるということは……。

「ええ。さすがに１日中ずっとではありませんが、待っていました。私は、少しでも早くタカシ様と合流したいと思っていましたから！！」

「ミティの言う通り！ 　……というか、タカシが無事か心配でさ～」

「ははは、そうか。それは嬉しいな」

　どうやら、俺のせいで寂しくさせてしまったようだ。

　申し訳ないが、同時に少し嬉しくもある。

　２人とも俺のことを待っていてくれたんだな……。

「とりあえず、この部屋を出よう。魔法陣が汚れたりしたらマズイからな」

「かしこまりました、タカシ様」

「オッケー！」

　アイリスとミティは素直に頷いた。

　そして、俺たちは別室へ移動する。

「あっ……！　お、お館様！！」

「お帰りになられたのですね、タカシさん。ご無事なお戻り、おめでとうございます」

　別室に行くと、レインとリーゼロッテが出迎えてくれた。

　２人とも、特に異変はないようだ。

「ただいま、２人とも。他のみんなもいるか？」

　俺はそう問いかける。

　この場にいるのは、俺を除いて４人。

　ミティ、アイリス、リーゼロッテ、レインだ。

　ミリオンズの面々の中では、ユナ、マリア、サリエ、蓮華の顔をまだ見ていない。

　もちろんミリオンズ以外の者たちの現状も気になるが、あまり大々的に動くのもな。

　中途半端に顔を出してしまうと、アレコレ気になることが増えるかもしれない。

　致命的な問題があればミリオンズのみんなが報告してくれるはずだし、自分から首を突っ込むのは避けておこう。

「あいにくですが、マリア様、サリエ様、蓮華様、ユナ様はそれぞれ用事があってすぐには来れないと思います」

「そうか。仕方ないな」

　ま、突然の帰還だったしな。

　むしろ、タイミングよくミティやアイリスたちと会えて良かったというべきか。

「お館様。まずは彼女たちにご挨拶された方が……」

「彼女たち？　――おおっ！　それもそうだな！！」

　俺はレインに促され、さらに部屋を出る。

　そして、また違う部屋に入る。

　そこには、クルミナを含め数人のメイドが控えていてくれた。

「久しぶりだな、クルミナ」

「はい～。お久しぶりです、お館様～」

　クルミナがニコリと微笑む。

　やはり彼女の笑顔は癒されるな……。

　その後ろに控えるメイドたちにも声をかける。

　まだ名前こそ覚えていないが、レイン、クルミナ、リンたちメイド勢を補佐してくれている新入りたちだ。

　そして、俺はこの部屋の主たちに視線を向け――

「――うおっ！？」

「あうー！」

「あうあ！！」

「きゃっきゃっ！！」

　――俺はタックルを喰らって、床へ押し倒された。

　なかなかの威力だ。

「うー！　あうっ！」

「きゃー！　あうっ！！」

「あうあ！！」

　３人の幼い女の子が俺の上にのしかかる。

　彼女たちが飛び乗ってきたと同時に、俺は体の奥底から湧き上がるこの感情に戸惑っていた。

　これはいったい……？

「ふふ。ミカったら、元気いっぱいですね」

「アイリーンも、パパに会えて嬉しいみたい」

「モコナちゃんも、元気に育っていますわよ。後でモニカさんに報告いたしましょう」

　ミティ、アイリス、リーゼロッテが口々に言う。

　俺に飛び乗ってきた３人の幼女は、俺の子どもだ。

　ミカは、俺とミティの子。

　アイリーンは、俺とアイリスの子。

　モコナは、俺とモニカの子である。

　生まれてから、そろそろ半年といったところか。

　まだ意味のある言葉を喋ることはできないようだが、元気いっぱいに育っている。

（これが父性なのか……？）

　俺は、自分の中に芽生えた感情を整理できない。

　だが、悪い気がしないのだけは確かである。

　３人への愛おしさが溢れ出しそうだ……。

　愛する妻や子ども、それに大切な配下や領民たちを幸せにするためにも、これからますます頑張ないとな……。