「はっ! ここは……?」
俺は目を覚ました。
どうやら布団に寝かされていたようだ。
周囲を見回すと、見慣れない部屋にいることが分かる。
(確か俺はリッカと戦っていて……)
徐々に記憶が蘇ってくる。
そうだ!
俺はあいつに負けたんだ!
「くそっ……!」
俺は布団から飛び起きる。
なぜか生きていた。
それはひとまず置いておこう。
だが、ミティとアイリスはどうなった!?
自分が無事でも、彼女たちに何かあれば意味がないのだ。
「タカシ様! どうかご安静に!」
そんな俺に声を掛けてきたのは、ミティだった。
彼女は心配そうな表情を浮かべている。
「お体は大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
俺は曖昧に返事をする。
正直、まだ頭が混乱しているのだ。
あの状況から、俺もミティも助かったのか……?
「あ、タカシ! 無事に起きたんだね!」
そんなことを考えていたら、今度はアイリスが声を掛けてきた。
「二人とも、無事だったんだな。ケガはないのか?」
「はい。私は大丈夫です」
「ボクも。あの人の魔法で拘束されていただけで、攻撃自体は大して受けていないから」
ミティとアイリスが答える。
2人に目立った外傷はないようだ。
俺はとりあえずホッと胸を撫でおろす。
「無事で良かったよ。それで、ここはどこなんだ?」
「ここは温泉旅館の一室です。タカシ様の指示で建造した……」
ミティが答える。
なるほど、確かに言われてみれば見覚えがある部屋だ。
ベッドではなく床の布団に寝かされていたことにも、これで納得である。
リンドウの主要産業は鉱山だ。
しかし、他にもいろいろと可能性を秘めている分野がある。
鉱山の横道に発見された古代遺跡。
自然豊かな西の森。
そして、山岳地帯で開発中の温泉だ。
「しかし、どうしてここに来たんだ? ――っ!!」
そこまで言いかけて、俺は体に痛みが走ったのを感じた。
聖女リッカとの戦闘は相当に激しいものだった。
闘気もMPもかなり消耗している。
「無理をなさらないでください。あやつの攻撃は特殊な聖気を帯びているとかで、アイリスさんの治療魔法でも完治させられなかったんです」
「そうだったのか……」
動けないというほどではない。
ちょっとした筋肉痛とか、捻挫くらいの感じだ。
これなら少し休めば回復するだろう。
それにしても、特殊な聖気か……。
おそらくは、神の力の一端だろう。
そんな攻撃を食らって生きているとは、我ながら悪運が強いものだ。
「ねぇ、タカシ。温泉に入らない?」
「温泉に? どうしてまた?」
ここは温泉旅館だ。
開発中とはいえ、温泉に入ることはできる。
リン、ロロ、ノノン、キサラ、トパーズと来たことがあるし、家族水入らずで入ったこともある。
だが、今の状況で入る理由は特にないはずだが……。
俺の疑問に対して、アイリスが答えてくれる。
「実はね、ここの温泉には疲労回復効果や傷の治りを促進する効果があるらしいんだよ! あ、もちろんエッチなのはナシだよ!」
ふむ……そういうことなら入ってみるのも悪くないかもしれない。
聖気が邪魔して治療魔法が阻害されている場合でも、温泉による治療効果はまた別物だろうしな。
せっかくの機会だし、ぜひ体験しておこうじゃないか。
「しかし、エッチなのはナシってのは残念だなぁ。アイリスも最近はずいぶんと積極的になってきたのに……。アイリスも残念だろ?」
俺が冗談めかして言うと、アイリスが顔を真っ赤にする。
「そ、そんなわけないでしょ!? もう!」
そう言いながらポカポカ殴ってくるアイリス。
そんな彼女をミティが諌める。
「まあまあ、いいじゃないですか」
「よくないよー! もう! もうー!!」
アイリスが可愛らしくプンスカ怒る。
そんなやり取りを見ていたら、俺も自然と笑みが溢れてくる。
「善は急げだ! さっそく温泉に行くぞ!」
「あ、でも……」
「どうした? ミティ」
「今すぐはマズイかもしれません。先客がいますので……」
「ふむ」
先客か。
ここの温泉は広く、湯量も十分にある。
将来的には男湯・女湯・ハイブリッジ家専用風呂に分ける予定だが、それでもまだまだ余裕があるほどだ。
ただし、各部を開発中の今は、すべての湯が使えるわけではない。
おそらくは、今はリンドウの女性陣が入る時間なのだろう。
それならば、男である俺が入るわけにはいかない。
仕方ないな。
それなら時間を改めて――ん?
いや、待てよ……?
「俺はハイブリッジ男爵家の当主だ。そして、リンドウ温泉旅館の所有者でもある」
俺の言葉に、ミティとアイリスが首を傾げる。
「それは知っていますけど……」
「何が言いたいの? タカシ」
「そんな俺なら、入っても問題ないんじゃないか?」
リンドウは発展途上の街である。
鉱山、西の森の魔物狩り、温泉開発などが現状の主産業だ。
つまり、男手の需要が高く、それに伴って住民の比率も男が圧倒的に多い。
女の住民は……治安維持隊のキサラ、温泉開発担当官のアビー、酒場店員のトパーズなどが挙げられる。
だが、彼女たちは全員が俺の女だ。
別に、入浴中の彼女たちに俺が突撃しても大丈夫だろう。
――いや、第三採掘場統括のケフィもいたか。
彼女には手を出していないので、少しマズイか……?
他にも、男住民の家族や女冒険者などもいる。
いくら貴族であり旅館の所有者でもある俺であっても、一般女性が入浴中の温泉に突撃するのはマズイかもしれない。
だが――
「事態は一刻を争う。俺の傷を少しでも早く治療することが、ハイブリッジ男爵領の未来のためになるはずだ」
リッカの件で、俺は懲りた。
山脈の向こうにある砂漠地帯には、しばらく手を出す気はない。
まずはヤマト連邦をどうにかする。
そのためにも、傷を癒やす重要性は高い。
これは決して覗きや痴漢行為ではない。
うん、大丈夫だな。
「よっしゃぁ! そうと決まれば、早速行ってくる! うおおおおぉ!!!」
俺は勢いよく立ち上がり、温泉に向かって駆け出す。
「あっ!? ちょ……」
「は、速い! タカシってば、こういうときばっかり……」
後ろからミティとアイリスの声がするが気にしない。
もう我慢できないんだよぉ!
俺は全速力で走りながら服を脱ぎ散らかす。
待ってろよ、女湯よ!!
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