1週間ほどが経過した。
「ハイブリッジ騎士爵! 準備はできたか!? 我の馬車で先導してやる! 早く自分の馬車に乗るのだ!」
「ああ。分かってるよ」
相変わらず高圧的な態度で接してくるベアトリクス第三王女。
ただし、どことなくぎこちなさも感じる。
あの日の事がきっかけだろう。
俺のモノを見てしまったことで、意識してしまい変に恥ずかしいようだ。
しかし俺を蔑むような態度は変わらない。
本当によく分からない奴だ。
「おい! 早くしろっ! 置いていくぞ!」
ベアトリクスが王家の馬車に乗り込み、そう叫ぶ。
馬車は数台。
中央に豪華な馬車が位置し、それに彼女やお付きの者が乗る。
周りを囲むように位置する馬車には護衛が乗り込んでいる。
また、王都に連行される千も乗せられているそうだ。
「はいはい……」
俺はそう返事をして、ハイブリッジ家の馬車に乗り込む。
中には、既にミリオンズの面々が乗っていた。
「タカシ様にあのような口を聞くとは……。いくら王女様とはいえ……」
「うーん。悪い人じゃないと思うんだけどねー」
「タカシとは相性が悪いみたいだね」
ミティ、アイリス、モニカがそう言う。
彼女たちの腕の中には、それぞれミカ、アイリーン、モコナが抱かれている。
今回の王都訪問に彼女たちを連れて行くかどうかで一悶着あった。
連れて行かないメリットとしては、産後で弱った母体や、生まれた直後でまだ体が弱い子どもたちが危険な旅路で体調を崩したりしないよう配慮できることだ。
本来であれば、屋敷で留守番しておいた方がいいだろう。
ただし、今回の王都訪問の目的は、俺が正式に叙爵を受けることだ。
第一夫人から第三夫人の彼女たちは、王家への顔見せも兼ねて連れて行ったほうがいいだろう。
それに、子どもが生まれたことを報告する際にも、本人たちがいた方がいい。
「みんなおはよう! 出発前に騒がしくてごめんな」
「「「きゃっ! きゃっ!」」」
ミカたちが嬉しそうに笑う。
この子たちも心なしか成長してきたか?
いや、まだ生まれて1か月も経っていないし、さすがに気のせいか。
「ベアトリクス第三王女様は、口はあれですけど親しみやすい御方ですよ」
「うむ。拙者も、剣術で何度か手合わせをしてもらった。性格も実力も信頼できる御仁でござる」
「ベアトお姉ちゃんは、優しいよっ!」
ニム、蓮華、マリアがそう言う。
ミリオンズの中でベアトリクスと親交があるのは、この3人だ。
ラスターレイン伯爵領で海水浴をした頃から、少しずつ仲良くなっている様子である。
確か、胸のサイズがどうとかで距離が近づいていったのだったか。
「殿下の心証を害していいことはありません。仲良くした方がいいのですが……」
「ふふん。実力で黙らせればいいのよ!」
「もぐもぐ……。このクッキー、素晴らしい味ですわ~」
サリエ、ユナ、リーゼロッテがそう言った。
サリエは貴族としての礼節や上下関係に厳しい。
一方のユナは、強さを重視する赤狼族として、王族相手にも強気だ。
そしてリーゼロッテは、我関せずといった感じでおやつを食べている。
現状のミリオンズ構成員は、この10人だ。
全員が王都へ同行する。
ちなみに人外構成員のティーナとドラちゃんも同行している。
「ふっ。騎士爵サマ。護衛は俺に任せておきな」
「私もしっかりと索敵して警戒致しますよ」
キリヤとヴィルナがそう言う。
最初はミリオンズだけで王都に向かおうかとも思った。
だが、ミティ、アイリス、モニカがそれぞれの赤ちゃんの世話をする以上、ミリオンズの戦闘能力は下がっている。
ただ単純に戦えないというだけではなく、守るべき者がいるため、普段以上に気を遣って戦う必要がある。
そのため、ミリオンズ以外からも何名か選抜して連れてきている。
そのトップは筆頭警備兵のキリヤと、その妻にして索敵や御者もこなせるヴィルナだ。
彼らなら信用できるし、頼りになるだろう。
「俺たちもしっかり働かせてもらおう」
「そうだね」
ネスターとシェリーがそう言う。
さらに、ここ最近で増やした警備兵からも何名かを同行させている。
この旅路の安全度は万全だ。
「ハイブリッジ家の安全は、お嬢様の安全。何でもご命令ください」
「私も頑張ります!」
「赤ちゃんのお世話は任せてください~」
同行するメイド勢のオリビア、レイン、クルミナがそう言ってくれた。
彼女たちは俺たちの身の回りの世話や、赤ちゃんの世話のサポートをしてくれる。
出産直後に長旅をすることになったミティたちの負担をうまく軽減してくれるだろう。
「王都ね。少し複雑な気持ちもあるけど……」
「……騒ぎは起こさないでね。月お姉ちゃん……」
「タカシさんに誘われたら、断るわけにはいかないよね~」
月、雪、花がそう言う。
彼女たちはハイブリッジ家の御用達冒険者だ。
今回の王都への旅路において、護衛として雇っておいた。
「さあ、出発だ!」
俺はそう号令を出す。
その言葉に従い、ヴィルナが馬車を走らせる。
目指すは王都!
まずは王城に向かい、国王陛下に謁見しなければならない。
そして叙爵式に参加し、正式に貴族となるのだ。
書面と伝令官の言葉により、俺は既に騎士爵として認められている。
しかし、正式な叙爵式は受けていないので、今回改めて行うことになる。
今後、気持ちを新たに活動していくことになるだろう。
ネルエラ陛下から、何かお言葉を賜るかもしれない。
緊張するが、しっかりと受け止めたいと思う。
俺はそんなことを考えながら、馬車に揺られていったのだった。
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