「…………」
俺は動けないでいる。
だってそうだろう?
俺は幻影により、周囲の海水ごと凍結されてしまったのだからな。
「ふん、口ほどにもない……。お前の運命はここで終わりだ」
幻影が氷越しに俺を見下ろす。
俺は幻影を睨みつけた。
(くっ……。まだだ……!)
「ほう。凍結されても、まだ意識を保っているか。浮気者とはいえ、さすがは並行世界の俺だな」
幻影が感心する。
普通、氷漬けにされたら意識を失い、間もなく死亡する。
体温が急低下する上、呼吸もままならなくなるからだ。
だが、俺はチートを持っている。
豊富な魔力量により、他者からの魔法干渉に関して強い抵抗力を持つ。
そんな俺なら、氷漬けにされても直ちに戦闘不能になるわけではない。
俺は氷に抗い、魔力を流し続ける。
すると、少しずつではあるが、凍結が解除され始めた。
(もう少し……。もう少しで抜け出せる!)
「往生際の悪い奴め……。ならば、これでどうだ?」
幻影が魔法の出力を上げる。
俺はそれに抵抗しようとするも……。
(ぐっ! な、なんという出力なんだ……!!)
「抵抗は無駄だ。……俺はタカシ=ラスターレイン『アクア・スタイル』。水も氷も、俺の領域だ。真実の愛を知らぬお前如きに、どうこうできると思うな」
幻影があざ笑う。
確かに、幻影の言う通りだろう。
水魔法系に特化した彼の水魔法の出力に、バランス型の俺が対抗するのは難しい。
だが、それでも俺は氷から抜け出すのを諦めない。
ここで諦めたら、俺の愛する妻や仲間たちはどうなる?
絶対に諦めるわけにはいかない。
俺は気合を入れると、再び魔力を流し込む。
「ふん……。まだ諦めないか。ならば、これでトドメだ!」
幻影が水魔法の出力をさらに上げた。
俺はその瞬間――
「うおおおおっ! 【魔皇炎斬】!!」
火の斬撃を放つ。
その斬撃は氷を溶かしながら、幻影に襲いかかった。
「なにっ!?」
幻影が驚愕する。まさか、俺が氷を打ち破って反撃するとは思っていなかったのだろう。
幻影は慌てて水魔法を繰り出して防御するが……。
「ぐはっ……!」
俺の斬撃が、彼の体を切り裂く。
水魔法に特化している分、近接戦闘は苦手と見えた。
相手の弱点を臨機応変に突くことができる――それがバランス型の利点だろう。
この優位性を活用せねば!
「よし! このまま押し切ってやる!!」
俺は勢いに乗って、幻影に攻撃を仕掛けようとする。
これまで、数多くの幻影に押されてきた。
スミス、セイント、サンダーシェフ、ヴァース。
アーチャー、フェニックス、ヒール。
そして、今回のアクア……。
いずれもかなりの強敵だった。
いろんな魔法で対抗したり、戦いの場を移したり、海水で混戦に持ち込んだりなどして、何とか粘ってきたが……。
まだどの幻影も倒せていない。
この『アクアスタイル』の幻影だけでも倒しておかないと、後が苦しい。
「うらああああぁっ!!」
「――【絶刀】」
俺はアクアスタイルの幻影に斬りかかる。
しかし、その攻撃は届かなかった。
また別の幻影が、俺の剣を受け止めたのだ。
「むっ!?」
「甘い剣筋でござるな。拙者の敵ではない」
「お前は……!?」
俺は目を見開く。
俺の剣を受け止めた幻影は、侍風の格好をしていた。
その特徴から推測するに……。
「――【無明斬】」
「ごはっ……!」
俺は斬撃を受けて倒れ込む。
太刀筋が見えない……。
とても強力な剣技だ。
チートを大いに頼りつつ我流で鍛えてきただけの俺には……かなり厳しい相手だ……。
どうやったら……これほどの領域……に……。
俺……は……もう……。
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