「お、お前たちはいったい……?」
俺はそう問いかける。
10人を越える男たち。
その全員の顔は同じだった。
髪型や服装は少しずつ違うが、全員が同じ顔をしているのだ。
「なんだぁ? こいつ……」
「へぇ……。この因果律の中では、こうした方向性で強化したのか」
「興味深いですな。男爵様にお仕えする上で、参考といたしましょう」
男たちは口々に言葉を発する。
その声質は同じだった。
口調は違うが、声質は同じだ。
「まさか、お前たちは……」
俺は1つの可能性に思い至る。
だが、それを口にできなかった。
そんな俺に対して、男たちが答える。
「ああ……。俺たちはお前だよ」
「正確には、『あり得たかもしれない因果律のお前』だ」
「簡単に言えば、並行世界ですな。まぁ、私どもはあくまで幻影ですが……」
彼らはそんなことを言った。
やはりそうか……。
俺は納得する。
彼らは、パラレルワールドから召喚された俺なのだ。
いや、幻影とか言っているし、あくまで仮想の存在なのか?
「ならば話し合おう。俺よ」
「不可能だ。俺たちはあくまで幻影。元人格であるイノリの意思に従い、お前を封印する」
俺は対話を試みる。
だが、1人の俺に拒否された。
他の俺もうなずいている。
異なる世界から人物を召喚する魔法は、ダダダ団のリオンも行っていたが……。
それとは少し違うのか?
並行世界の人格を召喚したわけではなく、あくまで再現しているだけなのかもしれない。
元の肉体はイノリのものであり、その肉体に幻影が憑依している感じか。
「ただでやられると思うなよ? 俺は『ステータス操作』によって数多くのスキルを強化してきたんだ」
「それは、こっちだって同じさ。いや、お前は選択を誤っている分、こっちの方が有利か」
「へっ……。器用貧乏ってのはお前のことだ。目移りして、いろんなスキルを伸ばしたみたいだな? 雰囲気だけで分かるぜ。自分の『スタイル』ってやつを確立できてねぇな」
俺は俺同士で対峙する。
選択を誤った?
器用貧乏?
スタイル?
「何か文句でもあるのか? 俺は愛する妻たちのため、そして大切な仲間たちのため、懸命に努力してきた。その成果がこれだ」
「ふふ……。いい気にならないことですな。チートを使えば、その程度は誰でもできることです。あなたは結局、何も選んでいないだけでしょう」
1人の俺が言い放つ。
10人以上いる俺の幻影の中で、主に口を開いているのは今のところ3人。
その中で、彼の口調だけが丁寧だった。
しかし、その内容は辛辣である。
「なんだと……?」
「あなたは多くのスキルを強化し、数多くの魅力的な女性と知り合った。かつて無職童貞だった身には、過分な幸運でしょう。だが、それで満足して何も選ばなかった」
「違う。俺はみんなを幸せにするために行動してきた」
「流されるままに行動しただけですな。くだらないハーレムを築けただけで満足して、1人の女性を真摯に愛することを怠った」
「ぐっ……」
俺は反論できない。
事実かもしれないと思ったからだ。
生物学的に言えば、人間は動物だ。
あくまで獣の一種に過ぎない。
獣としての本能に従うなら、自分の遺伝子を残すために行動するのが当然。
つまり、できるだけ多くのメスに種付けしていくことが優先事項となる。
それが自然の摂理だ。
しかし……どうだろう?
人間が生物としてより高みに登ろうとするなら、純愛という道もあるのかもしれない。
オスとしての獣じみた本能に支配されていては、人間ではなくなってしまう。
少なくとも、俺は今の妻たちとの日々に満足しているし、幸せを感じている。
だが、それはあくまで俺の主観の話だ。
彼女たちが不満を感じていないとも限らない。
やはり1人の女性を愛し、その人との子どもだけを作るのが、最も理想的なのかもしれない……。
「ふ……。どうやら図星みたいですね」
俺が考え込むと、俺が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
他の幻影たちも俺を嘲笑した。
「諦めて封印されることだな。この俺の『紅剣インフェルノ』で、お前を焼き尽くしてくれる!!」
1人の俺が、巨大な剣を構える。
その刀身は紅く燃えていた。
あれは……かつてミティが作ってくれた『紅剣クリムウェル』に酷似している。
だが、その質はそれを凌駕しているように見えた。
それに、彼が身につけている鎧も高品質なものばかりだ。
まさか、並行世界のミティが作った武具だとでも言うのか?
「ま、待て……!」
「待たない。この世界のマイエンジェルは、お前の所業に悲しんでいるはずだ。その罪、お前の命で償え!! 【魔皇炎斬】ん!!!」
「くそっ!!」
俺は『紅剣クリムウェル』で応戦する。
だが、その武器性能には差がありすぎた。
「ぐおおぉっ!?」
俺は剣閃に混じった魔力の刃に焼かれ、後方に吹き飛ぶ。
その瞬間、俺の脳内に流れ出した。
存在しないはずの記憶が……。
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