ハイブリッジ家の関係者で試合を行うことになった。
今の参加人数は11人。
せっかくなので、16人集めてトーナメント形式にしよう。
参加者をあと5人集めたい。
セバスが視線を向けた先には……。
「では、私が参加致しましょう」
オリビアがそう言う。
彼女はサリエの付き人だ。
家事や料理に加えて、戦闘能力もそれなりにある。
さらに、セバスの視線が他の者にも向かう。
「レインさん。参加してみなさい」
「ええっ!? 私ですか?」
「はい。あなたも戦闘の訓練はしたことがあるでしょう」
「う~。でも、実戦経験なんてありませんよ」
レインがそう言う。
何らかの戦闘技法は習っていたことがあるが、兵士や冒険者として活動していたわけではないといったところか。
そう言えば、モニカも幼少期から格闘を習っていたのだったか。
彼女に加護を付与した時点で、格闘術レベル1を所持していた。
その分、冒険者としてデビューした後も順調に成長して活躍してみせた。
「いいじゃないか。出てみるといい。何かあっても、治療魔法使いはたくさんいる。大事にはならないさ」
俺はそう声を掛ける。
ミリオンズには治療魔法使いが多い。
まずは、治療魔法レベル5のサリエ。
他にも、俺、アイリス、マリア、リーゼロッテがいる。
「……わかりました。やってみます!」
レインがそう言う。
「よし。では、他には……」
「セバスさんも出てくださいよ。私にお手本を見せてください」
レインがそう言う。
老体に戦闘は無理だろう。
俺はそう思ったが……。
「ほほ。よろしいですよ。それでしたら、私も参加させていただきます」
「おお! セバスも戦えるのか。それは初耳だ」
彼は執事として非常に有能で、ソツのない仕事をしてくれている。
それに加えて戦闘の心得まであったとはな。
「昔取った杵柄です。しかし、まだまだ若い者には負けませんよ」
「そうか。セバスもレインも、期待しているぞ」
「「はい」」
これで参加者は14人になった。
「あと2人だな。誰かいないか?」
俺はそう言って、辺りを見回す。
いつの間にか、みんなが集結している。
「……アイリス、モニカ。どうだ?」
ミリオンズの中でも肉弾戦に秀でるのが彼女たちだろう。
ミティやニムも強いが、彼女たち2人は出場が決まっている。
他にもユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテはもちろん強いが、遠距離攻撃や魔法に秀でたタイプだ。
今回のトーナメントに無理に出る必要はない。
「そうだねー。出たいところだけど……。やめておくよ」
「私もそうする」
アイリスとモニカの2人ともが出場辞退だ。
「ふむ……。まあ、2人が出たら他の者が萎縮してしまうか」
近接戦闘において、彼女たちはミリオンズ内でも最強クラスである。
ミティやニムに加えて彼女たちも出場してしまうと、優勝は実質的にその4人の争いとなってしまうだろう。
それは少し面白くない。
「うーん。それもあるけど、実はまだ体調不良気味なんだよね」
アイリスがそう言う。
少し前から、調子を崩しがちだ。
元気な日もあるのだが……。
「同じく。そう言えば、ミティは大丈夫なの?」
「ここ最近は大丈夫です! あまり無理はしないようにします!」
モニカの問いに、ミティが元気よくそう答える。
体調を崩しがちなのは、ミティ、アイリス、モニカの3人だ。
この3人の共通点は何だろう?
俺が考えこもうとしていたとき……。
「ふっ。それなら、ヴィルナが出てみろよ」
「私? でも、私は1対1の戦闘向きじゃないですよ?」
キリヤの言葉を受けて、ヴィルナがそう言う。
彼女は屋敷の警備兵として働いている。
細剣を使った戦闘能力は、それなりにある。
冒険者で言えばDランクといったところだろう。
ただし、彼女の長所はその索敵能力だ。
兎獣人として優れた聴力を持っている。
「いいじゃねえか。組み合わせ次第ではワンチャンあるかもしれねえぜ? 優勝して、賞金をたんまりもらえばいいだろう」
キリヤがそう言う。
優勝候補はミティかニムだ。
しかし、組み合わせによっては誰しもが優勝する可能性がある。
ミティとニムが早い内に潰しあった上で、その次の戦いでも疲労が残っていたりすれば、彼女たちでも負けることはあり得る。
「わかりました。では、私も参加でお願いします」
「おう。なら、いよいよ最後の1人だが……」
俺はそう言う。
「拙者が出させてもらおう。これも修行の一環でござる」
「おお、蓮華もか」
エルフの侍、蓮華の参戦だ。
「うむ。この中には、まだ手合わせをしたことのない者もいる。興味を惹かれたでござる」
「そうか。健闘に期待しているぞ」
「任せるでござる」
これで16人が揃った。
キリヤとナオン。
トミーと雪月花。
クリスティ、ネスター、ヒナ。
ミティとニム。
オリビア、セバス、レイン。
ヴィルナと蓮華だ。
ハイブリッジ家の関係者は他にもいるが、さすがに全員が出場するわけではない。
しかし、それでもなかなかの人数だ。
「では、早速トーナメント表を作るとする。準備してくれ」
簡易的なクジを用意し、各自に引いてもらっていく。
しばらくして、無事に組み合わせは決まった。
「では、北の練習場に向かうか」
「ちょっと待ってよ。ハイブリッジ騎士爵様」
そう声を掛けてきたのは……。
文官のトリスタだ。
彼は参戦しないが、騒ぎを聞きつけてこの場にいる。
「どうした?」
「せっかくだし、観戦客を集めよう。観戦料を取れば街の運営費や開発費の足しにできるよ」
「なるほど」
抜かり無いな。
労働嫌いの割には、きちんと考えるべきことを考えている。
「しかし、そんなにすぐに集まるだろうか?」
「そうだね。数日後の開催にすれば、興味のある人は予定を空けてくれると思うけど」
数日後か。
まあ問題あるまい。
参加者は全員、この街を拠点に活動している者たちだからな。
「な、なるほど。悪くありませんね。それなら、その間にわたしの土魔法で”北の練習場”にステージをつくっておきましょう」
「私も手伝いますよ。むんっ!」
ニムとミティがそう言う。
そんな感じで、トーナメントは数日後に開催されることになった。
みんなの戦いを見届けさせてもらうことにしよう。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!