数日後――。
「ネプトリウス陛下。この度はお招きいただき、ありがとうございます」
「うむ。よくぞ参られたな、客人よ。ゆるりとしていくといい」
俺は玉座の間に通された。
ネプトリウス陛下というのは、人魚の里の王様の名前だ。
エリオット王子やメルティーネ王女の親父さんでもある。
ヨイショしておかねばなるまい。
「聞くところによると、エリオット殿下たちはリトルクラーケン討伐に成功されたとか。おめでとうございます」
「うむ。貴殿に任せれば安全だったのだろうが、エリオットも決して弱くはないからの。次期国王として、武功を示してくれた」
俺の言葉に、ネプトリウス陛下が答える。
エリオット王子は、無事に魔物の群れへの追撃を成功させた。
怪我人は出たが、重傷者はいないと聞いている。
「エリオット殿下にも、直接お祝いの言葉をかけたいところですが……」
「しばし待たれよ。奴は今、持ち帰ったリトルクラーケンの死体の後処理を指示しているはずだ。準備が終わり次第、メルティーネと共にここに来る予定となっている。なに、そう遅くはならんはずだ」
やはり、心配なさそうだ。
元気な姿のエリオット王子やメルティーネ王女と再会できそうである。
俺はそのまま、陛下と会話を続けていく。
「……それにしても、貴殿は本当に人族か?」
「どういう意味ですか?」
ネプトリウス陛下が首をかしげる。
俺は尋ねた。
「いや、何……。貴殿の身体から発せられる魔力は、常軌を逸している。それに、メルティーネの加護を得たとはいえ、こうして海中で普通に生活している。とても人族とは思えないのだが……」
「ははっ、ご冗談を」
俺は笑った。
だが、ネプトリウス陛下の表情は真剣なままだ。
本気で言っているように見える。
「……もしや、メルティーネの処女を散らしたのか?」
「ぶふぉおっ!?」
俺は思わず噴き出した。
なんてことを言うんだ、この王様は!
「それはないですよ!」
「ふむ……。まぁ、メルティーネの性格を考えればそれもそうか。あれは呑気そうに見えて、案外身持ちが固い女だからな」
「は、はぁ……」
どうにも微妙な話題になってきたな。
なぜ、玉座の間で国王とこんなことを話さなければならないんだ。
俺がメルティーネを狙っているのがバレているのだろうが……。
それにしても微妙な話題だ。
「ど、どうしてそのような話を?」
「聞いておらんのか? 人魚族の娘の処女を散らした者には、加護が与えられるのだ」
「え……?」
初耳だ。
まさかそんなシステムがあったとは。
「ファーストキスに特別な意味があるとは聞いていましたが……」
「ふむ。別にそれも間違ってはいないがな。詳しく説明してやろう。まず――」
俺は、ネプトリウス陛下から加護の詳しい話を聞かせてもらう。
何でも、人魚族は海の精霊と親しいらしい。
その中でも、海の精霊との親和性がとりわけ高い者が存在する。
この里においては、王族に近い者ほどその傾向が強いという。
海の精霊との親和性が高い者が人族などと交わったとき、その相手は海への適応力が高まる。
深く交わるほど効果が大きいのだが、親和性が極端に高い者だとファーストキスなどでもそこそこの効果がある。
また、人魚族の男と人族の女という組み合わせでも可だが、人魚族の女と人族の男という組み合わせの方がより適応力が高まる。
そんな感じらしい。
こうして、俺は陛下から得た貴重な情報を整理していくのだった。
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