「ああぁ……。お、俺は……なんということを……」
俺は頭を抱えた。
先日捕らえた神官を拷問した結果、バルダイン王を変貌させている原因が分かった。
闇の瘴気だ。
瘴気に侵された初期症状として、自らの欲望や負の感情が表出しやすくなる。
症状が進行すると、欲望や負の感情に歯止めが利かなくなっていき……。
最終的には自我が崩壊してしまうのだとか。
瘴気を祓う方法はいくつかあるらしい。
代表的なのは、『聖魔法』によって浄化すること。
それを知った俺は、聖ミリアリア教の司祭である彼を拷問し、強制的にバルダイン王の症状を改善させた。
俺やマリアも、浄化の様子を傍らで見守った。
そこまではいい。
そこまでは良かったのだ。
だが……。
「お、俺は……いったい何人殺したんだ……? 俺は、俺は……」
『タカシお兄ちゃん……』
憔悴しきった俺を、マリアが心配そうに見る。
俺は国やバルダイン王を救うために行動した。
その結果……サザリアナ王国に住まう大勢の人々を殺してしまった。
俺は日本人だ。
いくら戦争とはいえ、人を殺して何も思わないはずがない。
チートスキルを得て調子に乗っていたのもあるだろうが、何よりも大きな原因は闇の瘴気だ。
瘴気に侵されたバルダイン王や六武衆と接するうちに、俺もその影響を受けた。
その結果、何の罪悪感も感じなくなっていたのだ。
そして、俺は火魔法で多数のサザリアナ王国民を焼き殺し――
「うぐっ……!?」
『タカシお兄ちゃん!? 大丈夫!?』
俺は吐き気を催し、その場に崩れ落ちた。
マリアが慌てて俺の背中をさする。
しかし、吐きたいのに吐けない。
そんな状態がしばらく続いた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
『だいじょうぶ、だいじょうぶ……』
マリアが俺の頬を撫でる。
俺は優しく彼女を抱きしめた。
「マリア、すまない……。俺が不甲斐ないばかりに……」
『タカシお兄ちゃんは何も悪くないよ……。悪いのは全部闇の瘴気だから……』
「……そうだな」
俺は立ち上がる。
瘴気に侵されていたのは、俺だけではない。
バルダイン王、ナスタシア王妃、マリア姫、六武衆、その他の一般兵士たち……。
かなりの人数にのぼる。
聖魔法を使える神官は1人しかいない。
全員の瘴気を祓うには、さらなる時間が必要だが……。
瘴気の症状が改善した今、神官を拷問して強制的に聖魔法を使わせる気にはなれない。
今さらだが、なんとか彼と対話して……。
彼の協力のもと、国の重鎮から優先的に瘴気を祓って……。
サザリアナ王国ともなんとか講和して……。
俺が代理で務めている国王の座をバルダイン王に明け渡して……。
やらなければならないことが山積している。
「マリア、すまないな。俺のせいで……」
『ううん。タカシお兄ちゃんがいなければ、マリアたちはみんな死んでたと思う……。マリアはずっとタカシお兄ちゃんの味方だよ!』
マリアが優しく微笑む。
その笑顔を見て、俺は少しだけ救われた気がした。
「ありがとう……。よし、頑張るか」
『うんっ! いっしょにがんばろうねっ!』
俺はマリアの頭を撫でる。
彼女の存在は俺にとって大きな救いになっていた。
彼女は俺の希望だ。
そんな彼女のためにも、俺は頑張らなければ……。
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