【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

652話 モニカとアイリスの出産

公開日時: 2022年5月6日(金) 12:49
文字数:2,505

「おぎゃあ! おぎゃあ!」


 分娩室の中から元気な泣き声が聞こえてきた。


「よし! 生まれたんだな!?」


「モニカ様のご出産です!」


「げ、元気な女の子ですぅ」


 レインとリンが扉の向こう側から教えてくれる。

 俺は急いで中に入る。

 モニカはベッドの上に横になっていた。

 疲れ果てている様子で、ぐったりとしている。


「モニカ。よく頑張ってくれた」


 俺はそう労いの言葉を掛けつつ、彼女の手を握る。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 荒い息を吐きつつも、笑顔を向けて応えてくれる。


「ありがとう。タカシのおかげで、無事に産むことができたよ」


「俺は何もしていないさ。でも、本当に良かった」


 俺はそう答える。

 そして、言葉を続ける。


「女の子だそうだぞ。ということは、名前は……」


「『モコナ』だね。元気に育つといいな」


 俺とモニカの子どもだ。

 ちゃんと育てれば、間違いなく元気いっぱいの子どもに育つだろう。


「体調に問題はないか? 俺にできることがあれば何でも言ってくれ」


「私は大丈夫。それより、アイリスの方を見てあげてほしいな」


「そうだな。わかった」


 俺がそう言うと、モニカはゆっくりと目を閉じた。

 レインとリンにより、モコナの生後処置は進められている。

 こちらは問題なさそうだ。


 俺はモニカの手を離し、アイリスの方に視線を向ける。

 この分娩室は広い。

 同時期に出産することに備え、大きな部屋を用意しておいたのだ。


「アイリスの嬢ちゃん。もう少しだからねぇ。頑張るんだよ」


 産婆がアイリスに声をかける。


「はあ、はあ……。も、もう少しなの……?」


 アイリスが不安そうな顔で言う。


「そうだね。ほら、頭が見えてきた」


 産婆がそう言って指差す先を見る。

 そこには、小さな赤子の頭が見えていた。

 アイリスの子どもだ。


 ミティとモニカの出産時は、俺は廊下で控えていた。

 素人が邪魔にならないようにとの配慮からだ。

 なので、実際に生まれ出た瞬間を見ていない。

 今は成り行き上、アイリスの出産の瞬間を見ることになった。

 初めて見る我が子の誕生の瞬間である。


(こういうときに、父親というのは何をするべきなんだろうな?)


 俺はそんなことを考えてしまう。


「うう……。痛くなってきたよぉ……。早く出てきてぇ~」


「大丈夫だよ。ほら、もうちょっと。……サリエの嬢ちゃん、治療魔法を」


「はい。……【ヒール】」


 ミティやモニカの出産に比べ、アイリスの出産はやや難航しているようだ。

 本来はできるだけ控えるべき治療魔法を発動している。


 出産中の者に対する治療魔法の制御はデリケートだ。

 母体に対して発動するのか、赤ちゃんに対して発動するのか。

 細かな調整が必要となる。


 治療魔法のエキスパートであるサリエでさえ、出産中の者に対して上級の治療魔法を発動することはできない。

 初級のヒールあたりで様子を見る程度が限界だ。

 出産後であれば、母体にも赤ちゃんにも、それぞれ普段通りに治療魔法を発動できる。


(アイリス……。頑張ってくれ……)


 出産の様子を見守りながら、俺は思う。

 俺からアイリスへの愛が増している。

 ミティやモニカに対してもそうだ。


 俺は元々女好きで、みんなに対して愛情を注いでいる。

 だが、ミティ、アイリス、モニカの3人に対する愛が急激に大きくなっているのを感じる。

 つい先日結婚式を挙げたばかりのニム、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテをないがしろにするわけではないが……。


(そうか。これが父性というやつか)


 アイリスたちが、こんなにも可愛らしく思えるのは、子どもができたからだろう。

 俺は今更ながらにその事実に気付いたのだった。


「赤ちゃんが出てきましたよ!」


「お、お疲れ様ですぅ」


 レインとリンがそう声を掛ける。


「はあ、はあ……よかった。これで私もお母さんになれたんだね。ありがとう、みんな」


 アイリスは安堵した表情を浮かべた。

 だがその一方で、産婆とサリエは険しい顔をしている。


「「…………」」


 無言のまま、アイリスに視線を向けている。


「え? なに? 2人ともどうしたの?」


 アイリスは戸惑っている。


「アイリスの嬢ちゃん。残念だが、この子は……」


「え? え? どうしたの?」


 産婆が言いづらそうに口を開く。

 アイリスが混乱しだす。


「死産じゃ……」


「……え?」


「胎の中にいたときは間違いなく生きておった。だが、生まれてくるだけの体力がなかったのじゃろう。出産中も治療魔法を掛けておったのじゃが……」


「そ、そんな……」


 アイリスの顔色が青ざめていく。


「サリエ、改めて治療魔法を……」


 俺がそう言葉にした瞬間、サリエが治療魔法を発動させていた。


「【オールヒール】」


 全てを癒やすサリエの治療魔法だ。

 今までに、何度も助けられてきた。

 それに、ラーグの街の重傷病者の治療も行ってきた魔法でもある。


 治療の光が赤ちゃんを覆う。

 しかし、赤ちゃんは泣き始めない。

 肌は青白く、生気を感じないのだ。


「俺も手伝おう。合同で治療魔法を……」


「……無駄かもしれません……。既に魂が……」


「……そうか。しかし、やれるだけのことはやろう」


 治療魔法は体の傷を癒やしたり、病を治したりする。

 上級になると、失われた腕を生やしたり、記憶喪失者の記憶を取り戻したりもできる。

 ぱっと見で明らかに死亡しているような状態からでも復活できることがある。

 地球における医療以上のことができるのだ。


 ただし、限界はもちろん存在する。

 魂が昇天してしまったら、蘇生は不可能だ。

 この赤ちゃんは既に……。


(だが、簡単に諦めるわけにはいかない)


 俺とアイリスの大切な子どもだ。

 ミティとモニカの出産が無事に終わったから1人ぐらい構わない、とはならない。

 みんなで幸せな家庭を築くのだ。


「わたくしも手伝います」


「マリアも」


 騒ぎを聞きつけ、リーゼロッテとマリアが分娩室に入ってくる。

 そして、みんなで詠唱を始める。


「「「「【パーフェクトヒール】」」」」


 魔法が完成する。

 サリエが単独で発動できる【オールヒール】のさらに上の魔法だ。

 あふれるような光が赤ちゃんを包む。

 だが、赤ちゃんは泣き始めない。


「残念じゃが……。どんなに手を尽くしてもこういうことはある……」


 産婆が沈痛な面持ちで言う。


「う、嘘……そんな……嫌ああぁぁぁぁぁ!!!!!」


 アイリスは涙を流し絶叫したのだった。

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