俺と龍神ベテルギウスは、互いに最後の技をぶつけ合った。
その結果、俺の『飛龍・火焔』がベテルギウスの『ドラゴニック・ノヴァ』を打ち破った。
「見事だ……。貴様は強かった……」
ベテルギウスが呟く。
「お前もな」
俺もベテルギウスに返した。
「最後に良い運動ができた。礼を言うぞ」
「どういたしまして」
「くくく……。しかし、最後の攻撃を受けて確信した……。本来の我の召喚者は貴様だったのだな? あのような小物が我を召喚できるはずがないと不思議に思っていたのだ」
小物呼ばわりされるリオン。
哀れな奴だ。
研究者としての彼はそれなりに優秀っぽいんだけどな。
チンピラの統率、アーティファクトの使用、英霊召喚など、あらゆる手段で俺に抵抗してきた。
ベテルギウスは脳筋気味なので、実際の戦闘能力に乏しいリオンは低評価になってしまうようだ。
「…………」
「沈黙は肯定とみなすぞ」
「まぁ、半分正解ってところだ。召喚者はあくまでリオン。その時に使用した魔力は、俺から吸収したものだった感じだ」
「なるほど……。あの魔力はなかなかに美味だった。次に星が揃うとき、同等の魔力を捧げよ。さすれば、我はまた召喚に応じてやらんでもない」
「ああ。考えておこう」
英霊召喚は、いつでもどこでもできる類のものではない。
星の並びの関係で召喚しやすいタイミングで、古都オルフェスの古代魔道具を使用する必要があるのだ。
また機会があれば、龍神ベテルギウスを召喚するのもありだろう。
今回は召喚者がリオンだったため、俺と彼は戦う羽目になった。
しかし最初から俺が召喚していれば、ベテルギウスも従ってくれた可能性が高い。
「楽しみにしているぞ。では、さらばだ……」
ベテルギウスが満足げに言う。
そして、光に包まれて消えていった。
後に残されたのは、ベテルギウスが肉体を借り受けていたリオンである。
もっとも、ベテルギウスに好き勝手に体を使われた反動で、しばらくは目を覚ましそうにないが。
「……よし。終わったな」
俺は息を吐く。
強敵ベテルギウスの脅威は去った。
あとはリオンを回収して陸地に戻れば終わりである。
(それにしても……)
俺はベテルギウスの最後の言葉を思い出す。
(次が楽しみとは……。あいつも相当戦闘狂だな)
俺は苦笑いする。
だが、悪い気分ではなかった。
「今回の召喚では、魔力の制約でベテルギウスは全力を出せなかったらしいんだよな……」
元が俺のMPのほんの一部だけなので、それも当然か。
もっと多くのMPを注ぎ込んでいたら、彼本来の実力を発揮できただろう。
末恐ろしいが、同時に頼もしくもある。
「龍神ベテルギウスよ……。今回の戦いはなかったことにしよう。次回こそ、完全な状態のお前を召喚したいものだ」
俺は誰に伝えるわけもなく、小さく呟く。
そして、陸地に帰るべく踵を返す。
そのとき――
「ぐへへ……。ようやく帰りやがったか……」
「ひひひ……。英霊サマのおこぼれでこの世界に来れたぜ……」
「だな……。俺たちがこの世界の支配者だ……。ひゃはははっ!!」
耳障りな声が聞こえてきた。
見ると、いつの間にか俺を取り囲むようにして数人の男たちがいる。
全員が薄汚れた格好をしており、重力魔法か何かで宙に浮いていた。
「お前たちは……?」
見覚えのない連中だ。
こんな場所にいるなんて、普通の人間ではないだろう。
「ひゃははっ! 俺たちは英霊のなりそこないだよ」
「あぁ。だがそれでも、この世界では覇者になれるはずさ」
「その通り。だから、この世界を俺らのものにするために、まずはお前を殺してやるぜぇ」
男どもが下卑た笑みを浮かべる。
事情はよくわからない。
だが、要するに異世界の亡霊か何かだろう。
リオンが英霊ベテルギウスを召喚した際に、紛れ込むような形でやって来たらしい。
そして、俺の『ロング・ワープ』で共にこの海上まで転移したわけか。
「……」
俺は無言で『紅剣アヴァロン』を構える。
ベテルギウスとの戦闘で、闘気も魔力もかなり消耗している。
それに、この亡霊たちも決して弱くはなさそうだ。
重力魔法か何かで宙に浮く芸当ができるのだから。
だが――
「残念ながら、お前たちの企みはここで潰える。我が紅剣アヴァロンのサビになるがいい」
俺はそう言って、残り少ない魔力と闘気を開放したのだった。
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