俺はルリイに続き、エレナからも無料券のお返しをしてもらった。
お返しと言っても、物ではない。
俺の腕に抱きついてもらったのだ。
しかし――
「ぐあああっ!!」
俺はエレナに殴り飛ばされ、地面に転がっていた。
ずっと担いだままだったリオンも、その拍子に放り投げてしまった。
後で回収しておくべきだが、今はそれよりもエレナの件だ。
「ぐっ……! な、何を――」
「うるさいっ! 誰が無乳よ!!」
「そ、そんなこと一言も言ってないでしょう!?」
「言ったようなもんでしょうが! この私が、恥を忍んでまであんたにハグしてあげたのに……! 『何か固いもの』ですって!? 固くて悪かったわね!! 無乳で悪かったわね!!!」
エレナの顔は真っ赤になっていた。
相当に怒っているようだ。
(マズイ……。気付かなかったが、あの固めの感触はエレナの胸だったのか……!)
言われてみれば、固い中にも少しばかり柔らかさがあった気がする。
いつもの俺なら、気づいていただろう。
貧乳もステータスであり、希少価値を持つ素晴らしい存在だからな。
俺は差別しない。
だが、それはそれとして、今回は状況が悪かった。
ルリイの豊満な胸の感触を味わった直後。
しかも、俺はエレナに命じられて目を閉じていた。
これでは、気付かなくても仕方ないと言えるだろう。
「いやいやいや……。あの……本当に誤解ですって……。確かに、俺も言い方がマズかったかもしれませんが……。決して、そういう意味では……」
「はぁっ? 言い訳なんか聞きたくもないわ!! どうせ男なんて、胸の大きさが全てなんでしょ!?」
「ち、違いますよ……。大きいのも小さいのも等しく尊いんです。俺は大きさではなく、形や感度を重視していま――」
「はぁ!? またわけの分からないことを言って……。もういいわよ!」
エレナが吐き捨てるように言う。
そして、そのまま俺に背を向けた。
「えっ……? ちょ、ちょっと待ってくださいよ……。エレナさん……?」
「うるさい! もう話しかけてこないで!!」
「そ、そんなぁ……」
俺は情けない声を出してしまう。
エレナは『タカシ=ハイブリッジ男爵』推しだ。
そのため、『Dランク冒険者タケシ』としてはノーチャンスだと分かってはいた。
しかし、ルリイからの流れを受け、『もしかしたら距離を縮められるかも』と思ってしまった。
やはり、エレナはガードが堅い。
ここは大人しく諦めて、『タカシ=ハイブリッジ男爵』としてリンドウでの再会する時を気長に待つのもアリだ。
しかしその前に、『Dランク冒険者タケシ』としても、できる限りはエレナからの評価を戻しておきたい。
「エレナさん……! 最後に一つだけ……! お伝えしたいことがあるんです……!!」
「……なに?」
エレナが振り返る。
不機嫌そうな表情だ。
しかし、無視せずに答えてくれたということは、一応聞く耳を持ってくれているらしい。
「小さい胸にも、価値はあります! エレナさんの胸だって、とっても素晴らしいものだと思いますよ!!」
「ふんっ! 口ではどうとでも言えるわね!! タカシ様以外の男なんて、どうせ……」
「口だけではありません! ほら、これを見て下さいよ!!」
「なによ?」
俺は股間をやや突き出すような姿勢で、仁王立ちした。
そこには、大きなテントが張られていた。
「えっ? ……ええええぇっ!?」
エレナが驚愕の声を上げる。
「ふぅ……。これで俺の想いは伝わったはず……」
「なっ……なっ……!」
エレナが口をパクパクさせる。
「ふふふー。これはなかなか……」
ルリイも、興味深げに見ている。
が、今はエレナへのフォローが先だ。
「どうです? エレナさんの胸のせいで、こうなったんですよ。もっと自信を持ってください!」
まぁ押し当てられている最中には、胸と気付かなかったわけだが……。
あの感触の正体を伝えられた今は違う。
男というのは、触覚情報や視覚情報で興奮するが、思い出や情報でも十分に興奮できる生き物なのだ。
「わ、私の胸で……? そんなこと……」
「まだ信じられませんか? なら、もっと完璧な方法で証明することも可能ですよ!」
「し、証明……?」
「ええ! 俺は諸用でリンドウにすぐには行けませんが、いずれ必ず向かいます! その折には――」
俺は大きく息を吸う。
そして――
「ぜひ混浴しましょう!!!」
……決まった。
彼女の胸へのコンプレックスを取り除く提案。
混浴して、イチャイチャすれば完璧な証明となるだろう。
これで俺への評価がプラスになること間違いなしだ。
俺はそう思ったが――
「死ねっ!!!」
「へぶっ!?」
エレナの蹴りが、俺の股間に炸裂した。
俺は悶絶し、体勢を崩してしまう。
そして――
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
「おっとー?」
ルリイも巻き添えにして、3人でもつれ合うようにして倒れてしまったのだった。
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