「……なんだ、思いの外に拍子抜けだったな。まさか俺たち二人だけで攻め落とせるとは」
俺は剣を鞘に収め、ふうっと息を吐いた。
足元には意識を失った侍たちが散らばっている。
周囲を見渡せば、まさに死屍累々。
だが、実際には誰一人として命を奪ってはいない。
俺の剣技は、すべて峰打ちだ。
「兄貴……。い、いつの間にこれほどの力を……? 下見だけのつもりだったのに、まさかこんなことになるなんて……」
流華が震える声で問いかける。
彼の目は驚愕と困惑に揺れていた。
当初、俺たちはただ湧火山藩を観光するつもりでここに来ただけだったのだ。
俺と流華は、二人でぶらりと藩内を巡った。
その流れで城下町にやって来て散策した。
湧火山城の雄大な姿を眺めながら、軽い気持ちで「もし攻めるとしたらどうする?」なんて作戦を練ってみただけのこと。
それがどうしてこんな事態に発展したのか、自分でも少し理解が追いつかない。
「あの時、侍に聞かれたのが運の尽きだったな」
物騒な話をしていた俺たちを盗み聞きした侍が、咎めるように詰問してきたのが発端だ。
その場をやり過ごそうとしたが、状況は悪化するばかりだった。
仕方なく応戦する形で侍たちを峰打ちで倒し、逃げ、また次の追っ手を倒し……。
そうしているうちに、いつの間にか湧火山城の門を突破していた。
「いやいや、兄貴。こんなの普通じゃないって! 俺だって兄貴の腕前を知ってるけど、いくら何でもここまで無茶苦茶じゃなかっただろ!?」
流華が肩で息をしながら続ける。
その言葉に、俺は肩をすくめた。
「ふむ……確かに、以前の俺だったらもう少し手こずったかもしれん。だが、今の俺は違う。桜花城での戦いで成長したからな」
俺には『ステータス操作』のチートがある。
また、『ミッション』の存在もある意味ではチートだろう。
ミッション報酬でスキルポイントを得れば、それによって自身のステータスを強化できるからな。
桜花城での戦いは、純粋に戦闘経験という意味で糧になった他、レベルアップやミッション報酬という面でも大きな意味があった。
桜花城を攻め落としたときより、今の俺の方が一回り強い。
「……細かい話は後回しだ。それより、湧火山藩の藩主さんよ」
俺はうなだれる男に視線を向ける。
彼は一人残らず倒された家臣たちを見回しながら、悔しさに歯を噛みしめていた。
その表情に宿る屈辱は、俺にも容易に理解できる。
「もちろん、降伏してくれるんだよな?」
俺の問いかけに、彼はしばらく言葉を発さなかった。
やがて低い声で絞り出すように言う。
「くっ……! 紅蓮竜様がここにいれば……!」
その一言に、流華が目を丸くした。
俺にとっては、聞き慣れない単語だが……。
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