「2回戦第2試合を始めます! 怪力ドワーフのミティ選手対、ルビアナ道場出身のジルガ選手!」
いよいよミティの試合だ。
「ミティ、がんばって! でも無理はしないように!」
「がんばります!」
ミティがステージに上がる。
少しだけ緊張しているようだ。
「両者構えて、……始め!」
試合は始まったが、両者動かない。
ジルガがミティに話しかける。
「1回戦は見事だった。それに、ギルバートからきいてるぜ? 見かけからは想像できないような怪力だってな」
「それで、どうしますか? 小娘相手にビビって近寄れませんか。骨なしチキン野郎ですね」
ミティ、1回戦に続いて口が悪いな。
実はそういうキャラなのか。
いや、やはり試合だからあえて煽っているだけかな。
口撃も武闘のうちだ。
少し邪道な気もするが、考え方は人それぞれだ。
ちなみに俺の考えとしては、自分がやられるのは嫌だが、自分がやるのはOKな感じだ。
ミティは俺の家族みたいなものだから、彼女が他人にやるのはもちろんOKだ。
臨機応変にいこう。
「いってくれるじゃねえか! 挑発に乗るわけじゃねえが、力勝負は望むところだ!」
彼はそう言ってミティに近づき、組み合った。
力は拮抗しているようだ。
ミティは、俺の加護による基礎ステータスの向上に加え、腕力強化レベル4、闘気術レベル3を習得している。
そんなミティのパワーに対抗できるとは、ジルガのパワーもかなりのものだ。
いや……。
さすがにミティの方が若干優勢のようだ。
ミティが力で競り勝つ。
体勢を崩したジルガを1本背負いで地面に叩きつけた。
「ぐおっ!」
ジルガが痛みにうめく。
これが柔道の試合ならミティの1本勝ちといったところか。
しかしこれは無差別ルールの武闘大会なので、まだ終わらない。
ジルガは多少のダメージを負ったようだが、問題なく立ち上がった。
「やるじゃねえか! ギルバートが一目置くだけのことはある! 力だけの正面勝負は分が悪そうだ」
彼はそう言って、パンチを繰り出してきた。
組み合いからの純粋な力勝負はやめたようだ。
「拳の勝負も望むところです!」
ミティも負けじと応戦する。
ミティからすれば、取っ組み合いに持ち込むのが1番だが、こういった乱打戦も悪くない。
距離を取られて、回避や搦め手主体で攻められるのが一番困る。
相手が乱打戦を望むならば、それに応じるのも当然の選択だ。
「おらあ!」
ジルガのパンチがミティの顔にクリーンヒットする。
おい。
顔はやめろ。
ミティの天使のような顔に傷でもついたらどうする。
まあ傷がついても俺は気にしないけどな。
もしミティが気にするようなら、俺が治療術レベル5を取得して治すが。
そんな感じでヒヤヒヤしながら観戦する。
どうやら、ミティは闘気術でガードしたようだ。
しかし、ある程度のダメージは負ってしまった。
「ふん!」
ミティもお返しとばかりにジルガの顔面にパンチを繰り出す。
君たち、顔面狙いばかりだね。
ボディ狙いでもいいんじゃないか。
そんな感じで、白熱した攻防が10分以上続いた。
2人とも、すでに満身創痍だ。
「ぜえ、ぜえ。な、なかなかやるな、嬢ちゃん」
息を切らせながらジルガが言う。
「はあ、はあ。そ、そちらこそ」
ミティも息を切らせている。
「どうだ。次の一撃で終わりにしないか。全身全霊の攻撃をお互いにぶつけようぜ」
「……いいでしょう」
お互いに少し距離を取り、力をためている。
「いくぜ! 剛拳流奥義! ギガント……!」
「剛拳流奥義! ビッグ……!」
両者とも腕に闘気を集中させた。
腕を大きく振りかぶり、互いに走って間合いを詰めていく。
「ナックル!!!」
「バン!!!」
ジルガのギガントナックルと、ミティのビッグバンが正面衝突した。
お互いに闘気を集中させた腕をぶつけている。
俺から彼らまでは少し離れているが、何か衝撃波のようなものが伝わってきた。
ミティのビッグバンは、俺のビッグバンとは段違いの威力だ。
…………。
数秒の後。
ジルガが倒れた。
立っていたのは、ミティだった。
「そこまで! 勝者ミティ選手!」
ミティ、頑張ったな。
Cランク冒険者のギルバートとジルガは、ほぼ同格だ。
そのジルガに勝ったのだから、ミティの実力はCランクといっても過言ではなかろう。
ミティが控室に戻ってくる。
控室で、ミティは治療術師から治療を受ける。
治療魔法による治療に加え、テーピングなども施してもらっている。
「ミティ。勝利おめでとう!」
拍手して祝う。
「タカシ様! ありがとうございます! がんばりました!」
ミティはガッツポーズをして嬉しそうだ。
ミティは今日の勝ちで、ベスト4入り。
明日の午前に準決勝がある。
それに勝てれば、午後には決勝戦も控えている。
しっかり休んでもらわないとな。
治療が終わる。
「ミティ。改めておめでとう」
「ありがとうございます! ……正面勝負で、助かりました。搦め手でこられたら、まず勝てなかったでしょう」
それは事実だろう。
ジルガは、パワーに秀でた選手だが、それだけではない。
なぜか正面からのパワー勝負にこだわってくれたおかげで、ミティは実力を十分に発揮できた。
「まあ勝ちは勝ちだよ。それより、疲れているだろう。明日に備えて宿屋に帰るか?」
本当はもう少し観戦したいが、ミティの明日の試合も大切だ。
彼女自身、勝てれば嬉しいだろう。
実利としても、こういう大舞台での戦闘により経験値が稼げるかもしれない。
賞金も魅力的だ。
明日の試合次第で優勝や準優勝を狙えるわけだからな。
まあ今日のベスト4入りだけでもそれなりの賞金があるが。
それに、ミティに賭けた金もある。
借金完済に着実に近づいている。
「いえ。傷さえ治れば、疲労はそれほどでもないです。それよりも、他の選手の試合を見ておきたいです」
まあミティが大丈夫というなら大丈夫か。
確かに、疲労を取るのも大切だが、他の選手の研究も大切だ。
ん?
アイリスがこっちに歩いてきた。
先ほどの俺との試合前のような落ち込んだ雰囲気はない。
「ミティ。2回戦突破おめでとう」
アイリスがミティの勝利を祝う。
「ありがとうございます。アイリスさん」
「まさかミティが2回戦も突破するとはね。それも、1回戦でボクが負けた相手を倒して」
自分を倒した相手がミティに負けた。
アイリスはショックを受けていてもおかしくない。
「相手が正面勝負にのってくれたおかげです。実力はまだまだです」
「勝っても謙遜を忘れない……か。ミティには見習うところが多いなあ」
「いえいえ、そんな」
「タカシにも負けちゃったし。今回はいいところなかったなあ」
アイリスがすねたような顔で言う。
だが、あまり暗い顔はしていない。
「まあいいや。今回はボクの負けだけど、今度は負けないからね!」
アイリスの中で、気持ちの整理はついているようだ。
一応、彼女の忠義度を確認しておく。
なんと40にまで上がっていた。
先ほどの試合がいい方向に作用してくれたようだ。
もう一息で加護付与の条件を満たす。
なにかさらなるきっかけがあればいいが……。
とりあえず、ミティとアイリスといっしょに以後の試合を観戦していくことにしよう。
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