「『散り桜』は、無敵の防御妖術だ。貴様に破れる道理などない」
景春が言う。
彼は自身の血統妖術に絶対の自信を持っているようだ。
「無敵ねぇ……。くくっ!」
「何がおかしい?」
「いや……虚勢がみっともないと思ってね」
「なっ!?」
「一つ助言をしてやろう。あまり強い言葉を使うな……弱く見えるぞ」
「貴様……! 桜花家の血統妖術を侮辱するか! 後悔させてやる!!」
景春が桜の花びらを舞わせる。
その妖力の密度が、明らかに増した。
「ほう……。先ほどよりも強い妖力を感じるな」
俺は言う。
攻撃力には欠ける……とか言っていた気がするが、その言葉は嘘だったのか?
そこらのゴブリンが相手なら、瞬殺できそうな雰囲気がある。
妖力と剣術を一概に比較することは難しいのだが、その攻撃力は1~3階あたりにいた侍のそれをゆうに超えるだろう。
「流浪人……、降参するなら今のうちだぞ」
景春が言う。
俺は肩を竦めた。
「まだ侮るか……! その油断が命取りだ! 散れ……【血統妖術・桜吹雪】!!」
景春が叫ぶ。
彼の周囲に舞っている桜の花びらが、俺に向けて飛んできた。
「ふん」
俺はそれを避けない。
正面から花びらの渦を受け止めた。
「油断が命取り? そんなことにはならない」
桜吹雪が俺に命中する。
だが、俺の体に傷が付くことはなかった。
超高体温の俺に触れた花びらは、一瞬で燃え尽きたのだ。
「なっ……!? 馬鹿な!」
「お前には学習能力がないのか? 樹影とやらとの戦いを、もう忘れたらしいな。金属ですら一瞬で溶けるのに、花びらなんかが通じるわけがないだろう」
自然の道理である。
この世界には魔力・闘気・妖気などの概念が存在するため、俺の直感に反する物理現象が起きることもあるのだが……。
無機物に限定すれば、概ね俺の感覚通りの現象が起きる。
「くっ……! なら、これはどうだ? 集え、桜の花びらよ……!!」
景春が叫ぶ。
彼の周囲に舞っていた桜の花びらが集まり、一本の槍を形成した。
その長さは5メートル近くあるだろう。
「……で? 無駄だと思うがなぁ……」
「貫け!! 【血統妖術・桜槍】!!!」
景春が命じる。
その声に従い、槍が俺の体をめがけて飛んできた。
……この槍を一瞬で燃やし尽くすことは難しいだろうな。
単純に質量が大きいし、妖気で強化され耐火性が上がっているし、速度が尋常ではない。
「はぁ……」
俺はため息をつく。
そのままボーっと突っ立っていた。
「ば、馬鹿者! 避けぬと死ぬぞ!?」
景春が叫ぶ。
攻撃したのは自分なのに、相手を心配するとは……。
何がしたいのかよく分からん奴だ。
しかし、もう遅い。
槍は俺に到達していた。
「な……!?」
景春が絶句する。
桜の槍は超高温に耐え、俺を貫いた。
俺の体に風穴をあけた。
だが、それだけだ。
「言っただろう? 無駄だって」
俺は告げる。
体に風穴があいていても、特に痛みはない。
動きに影響もない。
「貴様……何者なのだ……? その術は……いったい……?」
「『炎精纏装・サラマンダー』だ。体を変質させる武技……使えるのは自分だけとでも思ったか? 井の中の蛙とは、お前のことだ」
俺は言う。
景春は驚愕に目を見開いたまま、固まっていたのだった。
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