【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1034話 震える少女

公開日時: 2023年5月27日(土) 12:13
文字数:1,924

 オルフェスのスラム街に足を踏み入れた俺。

 だが、ダダダ団のアジトがどこにあるか分からない。

 あてもなく路地裏を歩いていたところ、タルの中に潜む不審者を発見した。

 外から剣を突き刺して脅した後、火魔法で本人以外の全てを焼却してやっているところだ。


(そろそろいいか。――ん? 思っていた以上に体が小さいな……)


 気配察知スキルにより、タルの中の姿勢や体のサイズ感は分かっていた。

 しかし、スキルによってざっくりと気配のみを把握するのと、自分の目で実際に見るのとでは大違いだった。

 俺が予想していたのはやや背が低い程度の男だったが……。


「なんだ、子どもだったのか」


 俺の目の前にいるのは、年端もいかない少女であった。

 年齢はおそらく10歳前後といったところだろう。

 髪はぼさぼさで薄汚れているが、顔立ちは非常に整っている。

 将来はかなりの美人になるだろう。

 しかし、今は恐怖と羞恥で顔を歪ませていた。


「お前は何者だ。ここで何をしていた」


 俺は淡々と尋ねる。

 少女は俺の質問に答えず、ガタガタと身体を震わせて俯いている。


(悪いことをしたかもなぁ……)


 彼女の体のすぐ近くを剣で滅多刺しにした上、火魔法で彼女の肉体以外を焼却したのだ。

 幼い彼女にとって、かなりの恐怖を感じる出来事だっただろう。

 しかも、今の彼女は全裸だ。

 俺と彼女以外に人通りがいないのが不幸中の幸いとはいえ、人前で全裸を晒して羞恥心も感じていることだろう。


 だが、ここは心を鬼にする。

 幼い少女とはいえ、彼女もダダダ団の一員である可能性は否定できない。

 まずは、彼女の正体を教えてもらう必要がある。


「おい、黙っていては何も分からんだろう。なんとか言え」


「……けて」


「あ?」


「……助けてください」


「お前、何を言っている。俺が助けるわけないだろう」


 俺は呆れたように答える。

 率直に言えば、『将来的に美人になりそうな少女』というだけでも何かしらの手助けをしたい衝動に駆られている。

 だが、さすがに二つ返事で了承するには早計だ。

 俺には『ダダダ団の壊滅』『エレナたちの救出』『サーニャちゃんの安寧の確保』『ヤマト連邦への潜入作戦』などの任務が控えているわけだからな。

 いくら女好きの俺でも、全ての物事に首を突っ込むわけにはいかない。


「……なんでもします。だから、お願いです。見逃してください……」


「見逃す? 何の話だ?」


「私は奴隷なんかになりたくありません……。あなたたちダダダ団には逆らいませんから……。どうか……」


「…………」


 俺は少しばかり困惑してしまう。

 事情が飲み込み切れない。


(落ち着け、断片的な情報を整理するんだ)


 タルの中に隠れていた少女。

 髪はぼさぼさで薄汚れている。

 将来は美人になりそう。

 奴隷になんかなりたくない。

 あなたたちダダダ団には逆らわない。

 見逃してほしい。


(これらから導き出される答えは……)


 俺は頭の中で情報整理を推論を繰り返す。

 そして、一つの解にたどり着いた。


「ふん、俺も軽く見られたものだな」


「……え?」


「我らはダークガーデン。闇に潜み――闇を狩る者。ダダダ団などというチンケなマフィアといっしょにされるのは不本意だ」


「だ……だーく……がーでん?」


「そうだ。俺はダークガーデンのボス『ナイトメア・ナイト』。ダダダ団とは何の関係もない。ゆえに、見逃すも何もない。分かったら、二度といっしょにするな」


「は、はい……」


 少女は怯えながらも、コクコクと何度も首肯する。

 よしよし。

 俺の偉大さが伝わったようだな。

 男爵やBランク冒険者の肩書きが使えない今、こうやってハッタリをかますしかないのだ。


「理解したならばよし。では、さらばだ」


「ま、待ってください!」


「まだ何かあるのか?」


「私を……助けてください! 私は奴らに狙われているんです。必至で身を隠していますが、いずれ見つかってしまいます」


 少女がそう訴える。

 地元マフィアに狙われた以上、いつまでも逃げられるわけがない。

 タルの中に隠れても、一時しのぎ程度にしかならない。


 本格的に逃げるのであれば、他の平和な街に移住するのが一番だ。

 しかし、それにはまとまった金がいる。

 スラム街で暮らす幼い少女に、そのような余裕はないだろう。

 彼女視点で考えると、誰かの善意で助けてもらわない限り、ほぼ詰んでしまっていると言っていい。

 しかし――


「断る。そのようなことをする必要はない」


 俺が彼女を助ける?

 恩を売って忠義度を稼ぐのは大歓迎だが、今の俺は正体を隠している。

 オルフェスの住民に加護付与を試みるのは、ヤマト連邦の件が片付いてからがいいだろう。


 それにそもそも、ダダダ団は元々潰す予定だったのだ。

 彼女を助けるために潰すのではなく、俺が俺のために潰す。

 それで十分だ。

 俺はそのように考え、少女の要求を拒んだのだった。

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